19世紀英国の女性写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロン。7月2日(土)から始まる国際巡回展を前に、写真史に輝くキャメロン作品の魅力を、高橋明也館長と写真家・東野翠れんさんの対談でひも解きます。

7月2日(土)から9月19日(月)までの期間、東京・三菱一号館美術館で開催される回顧展「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」。
1863年末に初めてカメラを手にしたキャメロン(1815年-79年)は、記録媒体にすぎなかった写真を芸術の次元にまで引き上げた写真史上重要な人物です。本展は生誕200年を記念し、英国のヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が企画した世界6カ国を回る国際巡回展。日本初となるこの回顧展を前に、三菱一号館美術館の高橋明也館長と写真家でモデルの東野翠れんさんとの対談を通して、キャメロンの魅力をスペシャルムービーとともに紹介します。
現代よりも濃密な時間と、光が込められた写真。

48歳で初めてカメラを手にしたという、ジュリア・マーガレット・キャメロン。写真を芸術にまで高めた、写真史上重要な作家です。焦点をぼかしたクローズアップやネガに傷をつけるなど、デジタルとは異なるテクスチャーが新鮮に映ります。生誕200周年の国際巡回展の開催を前に、三菱一号館美術館の高橋明也館長と写真家でモデルの東野翠れんさんに、キャメロン作品の魅力について語ってもらいました。
高橋 キャメロンは19世紀に女性が強くなり、絵筆やカメラを持つようになった、その草分け的な存在です。当時の写真は3次元を2次元の媒体に記録するという、それまで絵画が担っていた役割を科学的方法で発展させました。
東野 確かに彼女の作品を見ると、フェルメールやレンブラントの光を思い出します。館長は三菱一号館美術館の開館当初からキャメロン展開催を考えていたそうですが、それはなぜですか。
高橋 男性のアーティストは為政者や権力者のために制作してきた歴史がありますが、女性はそういった組織の枠からはじかれてしまっていたので、より自由な表現ができたのです。一般の方も、社会的なステータスの高い人も同じ目線で撮影しています。

モデルの頭部を思い切ってクローズアップしたポートレートは、キャメロンが独自に発展させた手法。彼女はモデルの姿形など外見を克明に写し取ることよりも、内面の魅力など内に秘めたものを表現しようとしました。不鮮明な部分がかえって、見る者の想像力を喚起します。
一枚の写真に込められた、想いや時間を感じとる。

インド・カルカッタに生まれ、英国の上層中流階級の夫人として社交生活を謳歌していたキャメロン。その成果が、詩人のアルフレッド・テニスンや天文学者のジョン・ハーシェルなど当代一の著名人たちとの交流でした。こうした友人たちを撮影する際、彼女は“外見的な特徴だけでなく、内面の魅力”を写し取ることを試みました。そんなキャメロンと被写体との関係性についても、高橋明也館長と東野翠れんさんの話が進みます。
東野 どの作品の人物も、親密な世界観で描写されていますね。キャメロンはやはり、女性として表現していることを意識していたのでしょうか?
高橋 すごく意識していたと思います。ヴィクトリア朝時代の英国は、男性優位の抑圧的な社会でした。でも不思議なことに、そのなかから女性アーティストが数多く登場してきたのです。
東野 キャメロンの時代は、写真一枚の撮影にも、いまよりもっと長い時間をかけていたのでしょうね。その集中力や込められた想いが、これらの作品から伝わってくるようです。
高橋 一枚の写真でも、優れた作品はそのなかに想いや時間が込められています。同じような深みを、キャメロンの写真には感じます。会場のオリジナルプリント(ヴィンテージプリント)で、印刷ではわからない、その深みをぜひ体感してほしいと思います。

アルフレッド・テニスンの詩集『五月の女王』(1832年)の挿画写真。毎年5月1日に、少女に花冠を被せるという英国の田舎の習わしを写し取っています。中央で主人公を演じているのが、キャメロンお気に入りのモデルだったメアリ・ライアン。
写真家・女性アーティストとしての軌跡をたどる。

一枚の写真でも、優れた作品はそのなかに込められた想いや時間が感じられる、と語るふたり。記録媒体にすぎなかった写真を、芸術の次元にまで高めたジュリア・マーガレット・キャメロン。彼女の日本初の回顧展は、7月2日(土)から東京・三菱一号館美術館で開催されます。貴重なオリジナルプリント(ヴィンテージプリント)を含む約150点の写真や書簡などの資料、同時代や次世代以降の写真家の作品を通して、彼女の魅力に迫る本展。印刷とは異なるオリジナルプリントを通して、キャメロンが見た世界を体感してみてはいかがでしょうか。(青野尚子)
■高橋明也┃三菱一号館美術館 館長
東京藝術大学大学院で、マネなど19世紀フランス美術史を専攻。国立西洋美術館、オルセー美術館開館準備室を経て現職。2010年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章。著書に『美術館の舞台裏』(ちくま新書)など。
■東野翠れん┃写真家・モデル
高校時代より写真家、モデルとして活躍。ウェブサイト「こどもうちゅう」での連載をはじめ、写真や8㎜フィルムでの撮影・執筆を展開。著作に『ルミエール』(扶桑社)、『イスラエルに揺れる』(リトル・モア)など。

幻想的な物語や寓意を表した、絵画的なアプローチを感じさせる作品。友人の画家で彫刻家のジョージ・フレデリック・ワッツが、芸術を象徴する存在として音楽家に扮しています。ブレやボケなど、ソフトフォーカスによる視覚効果も特徴的です。

From Life―― 写真に生命を吹き込んだ女性
ジュリア・マーガレット・キャメロン展
三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
会期:7月2日(土)~9月19日(月)
休館日:月(祝日、9/12は開館)
開館時間:10時~18時(金、第2水曜、会期最終週平日は20時まで)
入館料:一般¥1,600
http://mimt.jp/cameron
●問い合わせ先/三菱一号館美術館 TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://mimt.jp