アポリス×FREAK'S STORE、LAと日本を繋ぐ心地よいニューベーシック

  • 写真:江森康之
  • 文:小暮昌弘
Share:

Made in Japanのこだわりを凝縮したニットを、日米の人気セレクトショップが共同で開発しました。

ロサンゼルスのアーツディストリクトに店を構える人気ショップ「アポリス」が、日本のセレクトショップ「FREAK’S STORE」とコラボレーションし、Made in Japanのこだわりが込められたアイテムを日米両方のショップで展開します。
「アポリス」という名前は「地球市民」を意味します。オーナーでありクリエイティブ・ディレクターも務めるラーン・パートンさんは、世界を旅する中で「慈善ではなく、ビジネスの力で未来を切り開き、社会を変えたい」との思いに駆られ、世界各地で商品の企画・生産を始めました。単に商品やショップを展開するだけでなく、貧困や経済格差が社会問題化している世界各地で積極的に現地生産を行い、雇用促進など、社会貢献をコンセプトに掲げるブランドです。
一方「FREAK’S STORE」は、日本でアメリカンライフスタイルを提案するセレクトショップを展開。アメリカ以上にアメリカ的なアイテムを多数揃えた、こだわりのショップと言えます。そんな両者がどんなMade in Japanをつくり上げたのでしょうか?

山形・寒河江の名ファクトリーでニットを生産。

寒河江駅近くにある佐藤繊維の本社。左が昔ながらの石蔵の工場を使った、セレクトショップ「GEA」。
半世紀以上の歴史を持つ機械を前に語り合う、佐藤社長とラーンさん。

今回のプロジェクトは、2年前にアメリカで、東日本大震災後の日本を心配したラーンさんが現地の状況を尋ねたことからスタートしました。プロジェクトのテーマは「CIRCLE(サークル)」。「FREAK’S STORE」と「アポリス」の両者、加えて素材の産地や工場、そこで働く人やつくられた製品を購入するお客様まで、それぞれの点が線で繋がるようにと願いから、プロジェクトの名前が付けられたそうです。「アポリス」の製品すべてには、「どこの素材を使い、どこで生産されたか」が明記されていますが、今回は、ラーンさんがわざわざ来日し、ニットアイテムの生産を担当する山形県寒河江市の「佐藤繊維」を訪れました。佐藤繊維は、紡績から製品づくりまでを一貫して手がける日本では稀有なファクトリーとして世界的にも知られています。2015年には地元寒河江市に世界中からこだわりの服や雑貨を集めたセレクトショップ「GEA」をオープン、その詳しい情報はPen Onlineでもすでにお伝えした通りです。

工場の紡績機械。古い機械を自分たちで工夫を加えながら、独創的な糸をつくり上げる。
原毛を紡績している様子。佐藤社長は、世界各地の産地を回り、良質な原毛を買い付けてくる。
試紡室と呼ばれるサンプルなどを生産する部屋には、複雑なプロセスでつくられる不揃いの糸が並ぶ。

佐藤繊維が山形で創業されたのは1932年のことです。佐藤正樹社長は、現在4代目ですが、この工場に残る古い機械を使ってオリジナリティあふれる糸を紡績し、欧米の有名ブランドの多くから発注を受けるまでに発展させた人物です。

佐藤繊維の名前を一躍有名にしたのは、ミシェル・オバマ大統領夫人が就任式で着用した黄色のニットです。それまで1グラムから25メートルしか伸ばせないと言われていたモヘア糸を、佐藤繊維はその倍以上の52メートルまで伸ばすことに成功、その極細のモヘア糸でオバマ夫人のニットがつくられていたのです。また、さまざまな太さと素材が混ざった独創的な糸も、佐藤繊維が得意とするものです。中には日本古来の和紙を使った糸まで開発しましたが、この糸がヨーロッパではいちばん人気です。

「佐藤繊維は歴史的な設備を使用しながら、常に新しい技術とプロセスを刷新、独自で美しいものをつくっているお手本になるような素晴らしい工場ではないでしょうか。代々受け継いだ機械と佐藤社長の好奇心と、先を見る集中力が組み合わさり、とてつもないシナジー効果で、世界でも最高峰の繊維を生み出していると私は思いますね」。ラーンさんは、佐藤繊維を訪れた感想をこう話します。

佐藤繊維は、紡績だけでなく製品までつくるファクトリー。編みたての現場を興味深くチェックするラーンさん。
左から、佐藤正樹社長、ラーン・パートンさんと夫人のリンジーさん。右端が「FREAK’S STORE」の社長、鹿島研さん。

今回のコラボレーションでは、佐藤繊維でニットアイテムの生産を担当していますが、このプロジェクトのために糸からオリジナルで紡績しました。オリジナルの糸には、前述の佐藤繊維が得意とする和紙が使われています。和紙はユネスコ無形文化遺産に登録された日本伝統の素材ですが、その和紙をスリット状に細く切って撚り、それをポリエステルの糸でカバーリングし、さらにコットンの糸と編んでいくという、複雑なプロセスを経てこの糸はつくられています。

「和紙をコットンと一緒に使うことはとても興味深いコンセプトでした。和紙は日本古来より残っているものですし。コットンと和紙を組み合わせて、日本でも唯一無二な素材、そして服をつくれることを現地で見させていただきました。私たちが信じ、やろうとしていることにも合致していますし、現場を見て楽しみはさらに膨らみました」

そう語るラーンさん。和紙は天然素材なので、自然環境にも優しい。和紙の糸は地中で分解されます。エシカルな「アポリス」のコンセプトにも合致する素材なのです。

大人を感じる、洗練されたニットコレクション

ニットT。人気のタックパンツやワイドパンツにも似合うように、リラックスしたサイズ感に。胸ポケットがアクセントになっています。色は白とネイビーとグレーの3色。メンズとウィメンズで展開します。¥12,800

「アポリス」と「FREAK’S STORE」がコラボレーションし、山形の佐藤繊維が生産と担当したニットウエアは3種類あります。ニットTとベストとカーディガンです。
どのアイテムを見ても、そして素材を触ってみても、すぐに和紙が使われているとはわかりません。実は和紙そのものは、コットンの2.5倍の吸水性があり、これはリネンを上回ります。しかもリネンのように肌触りがチクチクすることもありません。その糸を鹿の子編みにしていますので、肌との接地面が少なくなり、ドライタッチで、給水速乾の効果もあります。素肌に着ても快適です。デザインは、大人のリラックスカジュアルを感じさせるようなバランス感。シルエットも少し肩が落ちる感じになっています。襟はフロントにリブが入らず、しかし背中側はリブ付きという、とても凝ったつくりです。サイドにはスリットが入ります。メンズとウィメンズで展開しますが、ウィメンズはメンズをそのままサイズダウンしてつくられています。

クルーネックのニットベスト。サイドにスリットが入っています。Tシャツとレイヤードすれば、ノンシャランな雰囲気に。色は3色で、メンズとウィメンズで展開です。¥11,664

ふたつめのアイテムである「ベスト」は、メンズウエアでいま人気のアイテム。ニットTと同じ素材を使ってニットベストもラインナップしました。編み上げの肉厚も一緒です。クルーネックのデザインで、サイドに入ったスリットがお洒落です。細部の縫製まで美しく、シックな大人が着こなすことをイメージしてデザインしました。ラーンさんの夫人、リンジーさんは「アポリス」のすぐ近くで、雑貨などを集めて「アルケミーワークス」というカップルでも楽しめるショップをやっています。今回も一緒に来日しましたが、このベストはユニセックスで着られるようにデザインされており、「アルケミーワークス」にも並ぶ予定です。

ボタンフロントのカーディガン。リブが細めで、シンプルさが際立ちますが、ポケットの仕上げが繊細です。メンズはオーソドックスな長さですが、ウィメンズ版はロングタイプで展開します。¥18,360

最後がカーディガンです。もちろんこれも和紙を使った糸を使い、鹿の子編みで仕上げられています。メンズはオーソドックスな長さにデザイン、ウィメンズはロングタイプを発売する予定です。
「和紙は太糸なので、それを使いながらも生地をやわらかく仕上げたいと思いました。コンフォタブルに着たいと思ったからです」とラーンさんが言うように、日本とカリフォルニア、両方で快適に過ごせるようにと素材のやわらかさや生地の厚さなどが決められましたが、いずれのアイテムも、シンプルなデザイン、斬新な素材と美しいつくりで、まさにニューベーシックを感じさせるニットに仕上がっています。
今回のコラボレーションでは、ほかにも西日本でつくられた「和洋折衷」をテーマにしたジャケットやセットアップパンツなど、全16モデルが発売されます。全国の「FREAK’S STORE」で、4月22日(金)から発売、「アポリス」「アルケミーワークス」でも同じアイテムで発売される予定です。

両者が製作現場まで足を運び、完成したMade in Japanのニットコレクション。さりげなさのなかに日本人のこだわりとLAのセンスが感じられる、大人顔のベーシックニットに仕上がりました。(小暮昌弘)


●問い合わせ先 FREAK’S STORE TEL : 03-5770-8798 http://freaksstore.com/
Instagram https://www.instagram.com/freaksstore_official/
Facebook https://www.facebook.com/freaksfan