日本最古の温泉街で展開される最先端アートの祭典「蜷川実花×道後温泉 道後アート2015」。蜷川作品に彩られた道後温泉を訪れ、このユニークなイベントの見どころを紹介します。
日本最古といわれる愛媛県松山市の道後温泉を、華やかに彩る写真たち──。
「蜷川実花×道後温泉 道後アート2015」は、蜷川実花のアートが旅館やレストランの一室を大胆に変えてしまうアートフェスティバルです。心からリラックスできる、ニッポンならではのリゾートがますます楽しくなる、期間限定のこのイベントに出かけてみました。
アートとともに過ごす貴重な経験。
「道後アート2015」は、2014年に開催された「道後オンセナート 2014」に続くイベントです。「道後オンセナート」で行われた「HOTEL HORIZONTAL」は、草間彌生や荒木経惟ら10人のアーティストや建築家たちが期間限定で旅館の一室を改修し“泊まれるアート”にする、というものでした。「道後オンセナート2014」はすでに終了しましたが、一部は継続して展示を行っています。
今年の「道後アート2015」では蜷川実花をフィーチャー。旅館の2部屋を改修したほか、「道後温泉本館」やホテルのレストラン、ラッピング電車、浴衣まで、蜷川実花さんが撮影した花が乱舞しています。上写真は、「道後プリンスホテル」の客室を改修した「TSUBAKI」。蜷川さんが撮影した椿の花の写真が、部屋中を埋め尽くしています。壁はもちろん、床や天井も鮮やかな椿の花の写真が大胆にあしらわれました。ベッドリネンも特注したもの。椿に包まれて、極彩色の夢が見れそうです。
「大和屋本店」では、「PLANT A TREE」というタイトルの客室をつくりました。東京・目黒川で撮った桜の写真が襖や障子、座布団などを彩ります。障子からは光が入って、桜の花がさらに妖しく浮かび上がります。この桜の写真は、蜷川さんにとって悲しい出来事があった時に撮ったものだそう。あっという間に散ってしまう桜のはかなさと相まって、ちょっとしんみりしてしまいます。花は桜ですが、秋にふさわしい部屋かもしれません。
大和屋本店のロビーには、蜷川さんの写真によるオリジナルのランプシェードが飾られています。「TSUBAKI」がどちらかというと昼のイメージだとすると、こちらは夜のイメージといえます。
ホテル「茶玻瑠(ちゃはる)」のレストラン「La Cuisine Japonaise玻瑠(はり)」の個室には、大判の写真が飾られました。個室は2つあり、そのほか柱にも蜷川さんの写真が飾られています。このレストランのランチバイキングは、特に野菜の種類が豊富。どれも太陽の恵みを浴びたしっかりとした味で、何度でもおかわりしてしまいます。
スプレー菊の写真をあしらった浴衣は、道後温泉本館のほか、13の旅館でレンタル可能。女性ふたり連れで着ている人が何組かいました。浴衣で歩く人が多い道後の街の中でも、かなり目立ちます。アートを着て街を歩く、そんな体験も楽しいものです。
日常風景を一変させるアートの力。
「道後温泉本館」は、道後温泉の中心的な存在。日帰り温泉と休憩所をはじめ、道後に滞在していた夏目漱石など、道後ゆかりの史料を集めた部屋があります。皇室専用浴室 「又新殿(ゆうしんでん)」の見学もできます。
蜷川さんはそこに、暖簾と床の間に作品を据えました。改築から121年目を迎えるどっしりとした和風建築を、蜷川さんの写真があでやかに彩ります。とろっとした色合いの暖簾が風にはためく様子は官能的。古い歴史に楔を打ち込み、溜まっていたものがあふれ出してきたような感じもします。
街中では公衆浴場「椿の湯」にも、蜷川さんが撮り下ろした椿の写真の暖簾がかかっています。観光客だけでなく、地元のお客さんも多い日帰り温泉施設です。1両まるごと蜷川さんの花の写真でラッピングされた 路面電車もあり、道後温泉駅と松山市内を往復しています。
泊まれるアートという新たな試み。
蜷川さんの作品で飾られた部屋や電車のほかに、「道後オンセナート2014」の4部屋が継続して展示されています。ジャン=リュック・ヴィルムートは1952年、フランス出身のアーティスト。彼は「道後やや」に「Time Science」という部屋をつくりました。ここでは“時間”がテーマです。3つの時計のまわりから同心円状に広がっていく線が、さざ波のように寄せては返す“時”を象徴しているようです。
谷尻誠さんが手がけた「道後プリンスホテル」の「Sketch」は、写真を撮るとまるで絵の中にいるように見える部屋。壁や床、天井はもちろん、卓袱台やアメニティにいたるまで、いかにも絵画のようなペインティングが施されています。室内に入ると平面と立体の感覚が乱されて、非現実的な空間にいるような気持ちにさせられます。
繊細な有田焼の作品で知られる陶芸家・葉山有樹さんは、「ふなや」に一族繁栄を願う伝統的な文様“魚藻文”の世界を描きました。障子や襖に、藍で波や花が描かれています。洋室と畳敷きの和室とが続く旅館の一室にもかかわらず、水中にいるような不思議な感覚が味わえます。円卓上の、魚が描かれた鉢には水が満たされていて、その波紋が天井に映るのも楽しめます。
10月には「道後アート2015」の一環として、道後温泉本館が新たな表情を見せます。蜷川さんの花の写真が北や西側の障子やガラスに設置され、南側3階には夜間に映像作品が投影される予定です。昼と夜とで表情が変わる、あでやかなインスタレーションです。
温泉でアートを楽しむこのイベントは、美術館の白壁をバックに作品を鑑賞するのとはまた違った体験です。ちょっとぐらいほろ酔い気分で、おしゃべりをしながら見ていても怒られたりしません。アートと温泉と、美味しい食事とが渾然一体となって楽しめる、ほかではできない体験が待っています。(青野尚子)
蜷川実花×道後温泉 道後アート2015
開催期間:~2016年2月29日
開催場所:道後温泉およびその周辺エリア
■HOTEL HORIZONTAL 蜷川実花×道後プリンスホテル「TSUBAKI」
展示期間:~2016年8月31日
見学料金:¥1,080(谷尻誠「Sketch」とのセット料金¥1,296)
問い合わせ先:TEL 089-947-5111
■HOTEL HORIZONTAL 蜷川実花×大和屋本店「PLANT A TREE」
展示期間:~2016年8月31日
見学料金:¥1,080
問い合わせ先:TEL 089-935-8880
■「La Cuisine Japonaise玻瑠」(「茶玻瑠」3階)
展示期間:~2016年8月31日
問い合わせ先:TEL 089-945-1321
■道後温泉本館 エントランス陣幕、神の湯2階席・床の間作品、霊の湯2階席・床の間作品、館内暖簾
展示期間:~2016年2月29日
見学料金:エントランスは無料。神の湯の床の間作品や館内暖簾は、神の湯2階席以上の使用料、または又新殿観覧料。霊の湯の床の間作品は、霊の湯2階席の使用料が必要。
■椿の湯
展示期間:~2016年2月29日
見学料:無料
■HOTEL HORIZONTAL ジャン=リュック・ヴィルムート「Time Science」
展示期間:無期限
展示場所:道後やや
見学料金:¥1,080
問い合わせ先:TEL 089-907-1181
■HOTEL HORIZONTAL 谷尻 誠「Sketch」
展示期間:無期限
展示場所:道後プリンスホテル
見学料金:¥540
問い合わせ先:TEL 089-947-5111
■HOTEL HORIZONTAL 葉山有樹「藍」
展示期間:~2015年12月末
展示場所:ふなや
見学料金:¥700
問い合わせ先:TEL 089-947-0278
●浴衣
貸出期間:~2016年8月31日
貸出場所:道後温泉本館のほか、道後プリンスホテルなど13の旅館
貸出料金:¥2,160(道後温泉本館 神の湯2階席以上を利用の場合¥800)
※問い合わせは、各旅館・道後温泉本館へ。
●ラッピング電車
展示期間:~2016年2月29日
見学料金:無料(乗車は有料)
●道後温泉本館 外観ライトアップ
展示期間:2015年10月1日~2016年2月29日
展示場所:道後温泉本館
見学料金:無料
展示時間:終日(ライトアップは夜間、営業時間内)
※「HOTEL HORIZONTAL」は宿泊も可能。各ホテル・旅館にお問い合わせください。