服づくりに宿る、純日本製という矜持。

  • 写真:遠藤 宏
  • 文:倉野路凡
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服づくりの全工程を国内で行った、純日本製であることの証――。この新たな認証制度「J∞QUALITY(ジェイクオリティ)」を通して、日本のモノづくりの技術力と美意識を解き明かします。

「J∞QUALITY(ジェイクオリティ)」とは服づくりのすべての工程を国内で行った、純日本製アパレルであることを示す新認証制度。日本のモノづくりの技術力と美意識の証として、日本ファッション産業協議会が国内外に発信する新たなプロジェクトでもあります。今回、企業認証を取得した〝織り・編み、染色整理加工、縫製〞の各工場を訪れて、日本品質がいかに形づくられるかをひも解きました。

尾州織の歴史を引き継ぐ、日本屈指の毛織物工房。

2階で高速整経機に巻かれた糸はエレベーターで1階に降ろされ、スイス・ストーブリー社のオートドローイングで織機にかける前の準備を行う。
最初に訪れたのは、愛知県一宮市にある“織り・編み”の工程を行う中伝毛織。織物の糸づくりから企画・織り・出荷までを手がける親機(おやばた)です。尾州一帯は織物に適した水質をもつ木曽川が流れ、昔からウールの産地として知られています。現在でも親機90社、その下請けである子機(こばた)が600軒ほどあるとのこと。中伝毛織の工場内では24時間体制で織機が稼働し、発注された納期を厳守しています。
「当たり前のことですが納期を守り、お客様がつくりたい織物に対応できる設備と技術力を常に備えています」と取締役副社長の中島君浩さん。
ドイツ・ドルニエ社の織機で、糸を少しずつ絡ませる“絡み織”を行っている工程。多くの織機が常に稼働しているため耳栓は欠かせない。
部分高速整経機を使って糸をビームに巻きつける工程。最長2000mくらいの糸を巻きつけることが可能で、5台設置されている。
サンプル専用の短尺整経機。年間3000枚、1日3~4種類のサンプル生地を製作する。21~490mの糸を約3時間で巻きつける。
【織り・編み】中伝毛織(愛知県一宮市)
1931年(母体は1906年)創業。ウールの織物を糸の段階から加工する生地メーカー(婦人70%、紳士30%)で、24時間体制で稼働。工場内は温度・湿度を一定に保ち、ドルニエ社をはじめピカノール社、スルザー社のレピア織機など、合計74台の織機を導入し設備投資にも積極的だ。またベテランと若い技術者がペアで作業することで、技術の伝承に力を入れている。

海外からの評価も高い、最先端ファブリックメーカー

生地に色をつける染色工程。液流染色機と呼ばれる大きなチューブ状のマシンを使い、生地をロープ状につなぎ、130~135℃の高温で毎分300mのスピードで生地と染色液を循環させ染色する。
続いて、生地と縫製の中間工程になる“染色・仕上げ”加工を施す小松精練。石川県能美市に広大な工場を構え、ポリエステルを中心とした最先端の合繊ファブリックメーカーでもあります。織物に付着した糊やワックスを洗浄したあとに染色し、さらに撥水や防炎処理を施すなど、さまざまな機能性加工を行っています。
2003年からフランス・パリで開催される世界最高峰の服飾見本市「プルミエール・ヴィジョン」に出展し続け、13年には同展主催のPVアワードで日本企業初となるグランプリを受賞。海外の一流メゾンから生地を依頼されるなど、世界的にも広く知られている存在なのです。
生地を染める前の精練工程。連続精練機を使用し、紡糸から織物に仕上がるまでに付着した糊やオイル、汚れなどを洗い流す。
雨水などを弾く撥水加工の工程。ほかにも静電気を防止する加工、生地の風合いをやわらかくする樹脂加工などがある。
【染色整理加工】小松精練(石川県能美市)
1943年創業。当初は化繊ではなく一般的な精練事業を行っていたが、73年に販売課が新設され自販事業を開始。その頃からポリエステルを中心とするテキスタイルメーカーへと事業を拡大していく。現在の事業内容は服地(婦人、紳士、スポーツウエア)65%、資材用途35%の割合。2013年にはイタリア・リモンタ社と業務提携を行っている。

完成度にこだわる、縫製ファクトリーの雄。

レーザーを使い生地の柄を合わせ、一枚ずつ重ねていく延反作業。奥は粗断ちした生地をクリップで留めて、さらに正確裁断する工程。
最終工程の“縫製”を手がけるのが、山形県米沢市に工場を構えるTSIソーイング。米沢も尾州と同様に古くから織物が盛んな地域で、特に米沢一帯の織物の総称である「米沢織」が有名です。また紅花などを用いた草木染や、板締絣(いたじめがすり)で知られる「白鷹御召(しらたかおめし)」もこの地の織物になります。工場では婦人用のジャケットを中心に縫製。特筆すべき点は、データ収集のために生地試験を徹底して行っているところです。婦人用ジャケットの生地は織りや素材もさまざまで、そのまま縫製してしまうと、のちに湿度変化などにより縮んでしまうこともあるとか。そのため収縮率を考慮して裁断データをつくります。月に約20種類もの生地を調べるそうです。
「生地試験で変化を確認し、スポンジングマシンで収縮と生地の目を整えてから裁断に入ります。ここまで高い精度を求めているのは、日本の縫製工場ならでは」と工場長の佐藤征之さん。
すべての工程に宿る、日本ならではのこだわり。それこそがジェイクオリティの証といえるのです。(倉野路凡)
アサヒ社のスポンジングマシンによる準備工程。このマシンで振動させ、熱と蒸気を加えることで、生地に安定性を与える。
右は、パターンに基づいて試作サンプルを作製する作業。続いて左は、ミシンでパーツを縫い合わせる縫製工程。
【縫製】TSIソーイング(山形県米沢市)
1977年、東京スタイル社の直営工場として創業。婦人用ジャケットを中心に技術を磨き、現在では多品種・小ロットなど幅広いアイテムへの対応力を備える。完成度の高い縫製にこだわり、生地試験やスポンジングマシンの工程を重視。現在は50人の技術者が特殊ミシンなどを駆使。工場内でB品(不良品)展示を行うことで品質向上を図っている。

クリエイターが語る、ジャパンメイドの価値。

俳優の井浦 新さん。

映画を中心にドラマやナレーション、雑誌の連載など幅広く活躍する井浦 新さん。NHK『日曜美術館』の司会や京都国立博物館文化大使を務め、「匠文化機構」を立ち上げて日本の芸術・歴史・伝統文化を未来につなげ広げていく活動を行っています。仕事柄、またプライベートでも旅行をする機会が多い彼に、日本のモノづくりについての印象をうかがいました。

「これまでヨーロッパやアジア諸国を旅してきました。どの国も興味深い文化やオリジナリティが存在しますが、帰国するたびに改めて、日本のモノづくりの技術やクオリティの高さを実感します。デザイン性はもちろん、ディテールにいたるまで、どの分野も世界最高峰のレベルといえます」と井浦さん。

現代美術家のスプツニ子!さん。photograph by Yoko Shinozuka
写真や映像をはじめ、音楽、パフォーマンスなど、先端テクノロジーを駆使した現代アート作品を制作するスプツニ子!さん。彼女が日本の服づくりの技術を実感したのは、農業生物資源研究所が開発した“光るシルク糸”だったといいます。今年、グッチ新宿で催された自身の作品展示『Tranceflora - エイミの光るシルク』で用いたもので、蚕にクラゲやサンゴの遺伝子を注入することで蛍光に輝くシルクの服が誕生しました。
「京都の西陣織の老舗『細尾』さんに協力してもらいました。まさに伝統と革新のコラボレーションで、日本のモノづくりの力強さを感じました。これからも現状に満足せず、世界に向けて発信していってほしいですね」とスプツニ子!さん。
認証製品には、ジェイクオリティのオリジナルタグが取り付けられます。このタグが日本品質を示す証。
■国内外に発信する、純国産の統一ブランド
通常、縫製工程が国内であれば“日本製”になります。一方、日本ファッション産業協議会が主導する新認証制度「ジェイクオリティ」は、企業認証を受けた“企画・販売”の企業が、“織り・編み、染色整理加工、縫製”の全工程を企業認証された国内工場で行い、かつ日本のモノづくりの技術力と美意識を国内外に発信するのにふさわしいと認められた製品のみが認証される“純国産品”といえるのです。8月14日現在、企業認証件数は241、製品認証件数は92となっています。
坂本竜馬の肖像写真と同じ、“湿板写真技術”によるポートレートサービス。なお撮影は組数を限定して実施予定。
■実際に見て試着できる、体験型イベントが開催。
服づくりに関するすべての工程を、日本の高品質な工場技術と匠のこだわりで仕上げた、純国産アパレルであることを示す統一ブランド「ジェイクオリティ」。この“オール・メイド・イン・ジャパン”の高品質な服や着物を展示し、紹介するイベントが開催されます。また実際に試着いただいた方には、特別な印刷技術によるポートレートサービスを提供予定。1週間の期間限定での体験型ギャラリーを、お見逃しなく。

【日本を纏う展 ~Japan Quality Clothing~】
開催期間:2015年9月15日(火)~21日(月・祝)
開催場所:DAIKANYAMA T-SITE GARDEN GALLERY
東京都渋谷区猿楽町16-15
TEL:03-3770-1888
営業時間:11時~19時(月~金)、10時~20時(土、日、祝)
※初日9月15日(火)は15時オープン、最終日9月21日(月・祝)は17時クローズの予定。
主催:経済産業省
協力:日本ファッション産業協議会

問い合わせ先/日本ファッション産業協議会 J∞QUALITY運営事務局
http://jquality.jp