ジョン ローレンス サリバン シャープでミニマルな、定番というスタイル

  • 写真:江森康之
  • 文:高橋一史
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語れる服 Vol.7: クリエイティブなファッションの担い手をフィーチャーする連載シリーズ。今回は、テーラードジャケットの可能性を追求する「ジョン ローレンス サリバン」の登場です。

スリムでシャープなジャケット

上のジャケットは、ブランドのスタート当初にデザインされた型です。現在に至るまで細部をブラッシュアップさせてきた定番アイテム。下に流れるようなスリムシルエットで、着ると硬質なムードが漂います。襟が細い「ナローラペル」、7mm傾斜の肩線がもち上がった「ビルトアップショルダー」、ボタン位置が低い「1つボタン」などのディテールと、それを調和させる優れたパターンと仕立て技術が、こうしたムードを生み出しているのです。柳川さんがデザインのベースについて話します。

「老舗のテーラーが並ぶイギリスのサヴィル・ロウ通りをイメージしたジャケットです。約10年前から継続してつくり続けています。イギリスの流儀に倣い、春夏モノでも裏地は背抜きでなく総裏にしています。ある種の“重さ”があるジャケットが好きなんです」


上段写真:袖口はフレア気味に広がり、背中はサイドベンツつき。直線的な胸ポケットにもこだわりが。「カーブしたバルカポケットは胸囲がある欧米の人に似合う仕様です。テーラリングのディテールを必要以上に強調しないのが僕のやり方」と柳川さん。テーラードジャケット ¥71,280

両玉縁ポケットの端はていねいに補強された「Dカンヌキ」。小ポケットはペン差し。
シェイプされた背中のカーブの美しさにもご注目を。
テーパードしたセットアップのパンツ。このスーパースリムとスリムの2種類がある。スラックス ¥30,240
1960年代のモダンなテイストが感じられるのも、柳川さんらしさといえるでしょう。「確かに往年のジェームズ・ボンドのようなイメージですね。近年にサヴィル・ロウの『ハンツマン』を訪れた時、ナローラペルで1つボタン、袖4つボタンのジャケットを目にして、いまの時代でもイギリスのスタイルとして続いていることを実感しました。ただ、ジョン ローレンス サリバンのジャケットは日本人体型にマッチさせており、着丈は短すぎず長すぎずのバランスに仕上げています。そのため、同素材パンツとのセットアップスーツとしても、デニムに合わせやすいブルゾン感覚の服としても汎用性の高い一着になっています」
仕立て方法で、初期のジャケットと比べて変わったところはあるのでしょうか?
「肩パッド以外の胸回りの硬さが昔よりやわらかくなっています。古典的な本バス毛芯を入れていたときもありましたが、毛が表面に突き出るケースもあり、お客様にご理解いただくのが難しい仕様でした。定番のジャケットは幅広い人に着ていただきたいという思いがありますので、仕立て方法を現代的にアレンジさせています」

ジャケットに似合う高品位Tシャツ

この10年の間にもファッションの流行は目まぐるしく移り変わり、テーラードジャケットが注目されない時期もありました。しかし、その時でもジョン ローレンス サリバンはジャケットをラインアップの中心に据えることにこだわり続けました。
「ジャケットが大流行した時に多くのブランドが手がけるようになり、日本の工場の稼働率が上がりました。でも、その流行が過ぎたら製造を止める人たちがたくさんいたのです。ジョン ローレンス サリバンにとっても“暗黒時代”と呼べるほどジャケットが売れなくなった頃ですが、その半面で工場の手が空くことにもなりました。そこで自分たちは工場さんとの関係を深め、ジャケットのクオリティをアップさせたのです。肩パッドの開発などの新しい服づくりに挑戦することもできましたし、彼らと共に行ったことがいま大いに役立っています」
襟がニットのネイビーTシャツ¥12,960
ニット襟の霜降りグレーTシャツ¥12,960
テーラードジャケットの現代的な着方として、柳川さんはインナーをスポーティなTシャツ一枚にする提案もしています。ジャケットに似合う美しい襟をもつTシャツのデザインについて彼が解説します。
「Tシャツの上にジャケットを着るのはカッコイイですよね。Tシャツにベストを重ねて、3ピーススーツで着てもいいですし。こうした着こなしに映えるように襟をニットに変更したTシャツをリリースしています。襟は2段リブ仕様で、『リンキング』という職人技の手法によりTシャツ本体とつなぎ合わせました」
ジョン ローレンス サリバンのコレクションにはほかにカジュアルなTシャツもありますが、一着一着の襟の幅を変え、ジャケットに合わせやすく工夫されています。
黒ウールカーディガン¥38,880
裾とつながった脇のリブ編み。
もう一つ、秋冬物の定番ニットをご紹介しましょう。ジャケットのように立体的で端正な佇まいをもつ、繊細なカーディガンです。
「このニットは18ゲージで細い糸を使っており、身幅もアームも細く設定した自信作です。ご注目いただきたいのは、伸縮性がある裾のリブと脇をつなげた編み方。高い技術がなければ編めない仕様で、個人的にも気に入っている服です」。フロントボタンを隠す比翼仕立てなので、ミニマルな着こなしができます。ハイゲージニットという新鮮なアイテムを、ワードローブに加えてみてはいかがでしょうか。

パンツ、シャツ、そしてモード

スタイルの一貫として、同じ型のアイテムをつくり続けるジョン ローレンス サリバン。写真の2プリーツ(2タック)のパンツも、時を経て人気を獲得したアイテムです。「腰回りがゆったりとした太めのパンツは、リリースした当初はまったく売れませんでした。でも時代の変化もあり、ここ何年かで支持されるようになりました。最初は馴染めなかった服でも、いつも目にしているうちに着てみたくなることがあります。このパンツはそういう服なのでしょう。さらに、こうした軸がブレない服づくりをすることが、信頼のできるブランドとして認められる結果になると信じています」


上段写真:腰のカーブにフィットさせるために必要なゆとりについて解説する柳川さん。2プリーツパンツ ¥25,920

柳川さんが「襟のロールがお気に入り」と語る比翼仕立てのドレスシャツ。¥25,920
シーズンコレクションの半袖シャツ。¥41,040
シャツにも定番があり、襟の裏をボタン留めした隠しボタンダウン・シャツもその一着。フロントもボタンを見せない比翼仕立てのため、クリーンでストイックな表情になっています。小ぶりの襟も日本人によく似合う大きさです。写真のもう一着のカラフルな半袖シャツは「光と影」をテーマにした今シーズンのコレクションのもので、アート作品にインスパイアされています。「ミニマルアートのドナルド・ジャッドや、ジェームズ・タレルらの現代美術作品から感じ取った、赤、青の四角形をモチーフにしたテキスタイルです。今季コレクションではこの模様を多くのアイテムに取り入れています」
手仕事でパンチングしたシューズ。¥77,760
ジョン ローレンス サリバンは、小物やアクセサリーにも優れたオリジナリティがあります。写真のダブルモンクストラップの靴はメッシュ状に四角い穴が開けられ、シャツと同様のアートが表現されています。そして、実はとても手間がかかるやり方でつくられているのです。
「アッパー用の革パーツに穴を開けると釣り込み(革を靴の形に曲げる)ができません。そのため、一度ノーマルな革で靴をつくってから、職人さんが一つひとつ穴の形を切り抜いています」。服と同様に小物も、一見しただけでは気づきにくいつくり手の創意工夫に満ちています。

ブランドヒストリー、東京の路面店

柳川さんは10代の頃に「オールデン」「J.M.ウェストン」などの革靴を履き、「グレンフェル」のコートを着て王道のメンズファッションに心酔していました。そんな彼が仕事として、子ども時代から続けていたボクシングを選び、プロボクサーの道へ進んだことはよく知られています。ファッションを仕事にしたのは、若くして引退した直後のことです。「長くロンドンへの憧れがありまして、引退で得たファイトマネーを持って渡英しました。古着を買い付けて帰国し、知り合いの家具屋さんで扱ってもらいました。でも古着が売れるたびに並べたラックがスカスカになる姿を見るのがイヤでして。その隙間を埋めるようにオリジナルの服づくりに着手したのが、ジョン ローレンス サリバンの始まりです。ブランド名の由来は、友人に教えてもらった往年のアメリカ人ボクサーの名前です」。ブランドは順調に拡大していき、東京コレクションでファッションショーを行い、今ではパリ・メンズ・コレクションに発表の舞台を移して世界に向けて発信しています。

彼のコレクションにはある種の派手さや大胆なデザインもあり、若いモードシーンの文脈で語られることが多いようです。しかしもうお分かりの通り、着る男性を引き立てる道具としての在り方も計算された服づくりが行われています。「昔は服を完璧な状態にすることに力を注いでいました。でも経験を積んだいまは、人の体が入る余地を残すように心掛けています。一着の服を仕上げる直前に、再度パタンナー(型紙をつくる人)と話し合い、人が着た時にどう見えるかを考えて、ボタン位置をずらすなどの工程を加えています」 
中目黒駅から徒歩7分ほどの旗艦店のエントランス。
定番のクロージングのラインアップ。
ボックス状に区切られた幾何学的なショップの内観。
柳川さんのデザイン活動の拠点でもある東京・中目黒にある旗艦店は、彼のアイデアで設計されたショップです。メンズ・レディスのフルコレクションをはじめ、定番のジャケットも2つボタン、別素材が用意され、シルエット違いのパンツも揃っています。「ジョン ローレンス サリバンを初めて購入するお客様の多くは、定番のジャケットをお選びになるようです。定番を確立させることがブランディングの決め手になると考えていますから、うれしいことです。僕自身も昔デザインしたブラックスーツを今も着ますし、ジョン ローレンス サリバン流のベーシックを好む人が増えていただければと願っています」

Arashi Yanagawa 柳川荒士
広島生まれ。2003年に「JOHN LAWRENCE SULLIVAN」を設立。2007年春夏シーズンに東京コレクション初参加。2008年に旗艦店をオープン。2010年春夏シーズンよりレディスラインを本格始動。2011年秋冬シーズンにパリ・メンズ・コレクション初参加。

問い合わせ先/JOHN LAWRENCE SULLIVAN  TEL : 03-5428-0068
JOHN LAWRENCE SULLIVAN  www.john-lawrence-sullivan.com/

ジョン ローレンス サリバン
東京都目黒区青葉台1-21-3 AOBビル 1F
TEL 03-5428-0068
営業時間:12時~20時 
不定休


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