デスティネーション ショップ 02:「ブラウン&シードリング」で、オーナーこだわりの品揃えを感じる。
古い服も新しい服も、選ぶ目線は同じ
「ブラウン&シードリング」が東京・京橋に店を開いたのは、2013年の9月。店名に特別な意味はなく、オーナーである西藤さんが、「seedling」という言葉が気に入っていて、この言葉のイメージから店名を考えたのだそうです。ショップのコンセプトは、古いもの、たとえばヴィンテージ的な価値があるものと新しいものとの境界線をなくした店づくりです。「新しいものを選ぶときの見方は、ヴィンテージを超えるものや、ヴィンテージと並べても違和感を感じさせないアイテムであることが基準です」と西藤さんは語ります。ヴィンテージな古着は一点もので、しかもフランスに特化して販売しています。「買い付けをお願いしている人が、ディーラーに加えて、一軒一軒、普通の家のドアをノックして倉庫や納屋などを見せてもらい、売ってもらったものから選ばせて貰っています。洋服のカタチ、構造、生地などを研究していると、現代の服は、フランスの古い服からヒントを得ているものが多いことに気づき、フランスのヴィンテージウエアに興味をもったのです」と西藤さん。一方で、「デサント オルテライン」(下写真)のように、日本のハイテクスポーツウエアなども一緒に扱っているのも興味深いところです。「いまと昔の生地を比べると、昔のほうが優れていることが多いのも事実。しかし機能素材だけは別です。ハイテクな素材、人間工学に基づいているものにも、僕は古い服と同じくらい、魅力を感じます。それにヴィンテージな服に高機能の服を合わせる着こなしは、モダンではないですか」と提案する着こなしにも言及します。
希少なフランス製のヴィンテージウエア
日本でヴィンテージな古着といえば、アメリカの製品がほとんどです。しかもジーンズなどの歴史的価値があるものを除けば、デッドストック、つまり新品がそのまま倉庫などに眠っていた製品の方が、使い込んだものよりも価値が高いといわれます。しかしフランスのヴィンテージウエアの場合は、逆に「直し」が入っている服のほうが価値が高いのだと西藤さんは語ります。「アメリカの場合、服を直すときには生地を外から当ててパッチで直すのが普通ですが、フランスでは縦糸と緯糸にかがりを入れて修理するんです。『ダーニングステッチ』といいますが、まさに芸術的なんです。フランスはやはりテイラードの伝統、文化があります。袖付けなどのテクニックが仕事着=ワークウエアにも生かされているんです。ヨーロッパや日本のデザイナーなども、絶対にフランスの古着をヒントに服をつくっていると思います」と、フランスの古着を熱く語ります。フランスもののヴィンテージは数自体が少ない上に、集めるのも難しいそうです。フランスの地方都市はもちろんのこと、隣国のベルギーまでバイヤーが出向きます。けれど仕事着として実際に着られていた服なので、探し当てても実際に商品として販売できるものは少ないとのこと。それでも、ヨーロッパの博物館にあるような服が間近で見られるのは、服好きにはたまらない部分です。上の写真は、1920〜30年代にフランスでつくられたと思われるファーマーズベスト(¥32,184)。素材はウール。右肩の背中にパッチが施されています。
「宝探し」の感覚が充満する品揃え
セレクトしているブランドで多彩な展開をしているのが、イギリスの「テンダー」です。2010年にスタートしたブランドで、その名の由来は、蒸気機関車の水と石炭を運ぶ貨車の名称から。英国でまだ蒸気機関車が走っていた19世紀のワークウエアからインスパイアされたデザインが特徴です。デザイナーのウィリアム・クロールさんは、ジーンズブランドで活躍し、サヴィルロウのテイラリング技術を学んでおり、ファッションで有名な英国のセントマーチンズでデニムウエアなどの講師も務める人物です。実は、「ブラウン&シードリング」の店の入り口にあるロゴは、そのウィリアムさんが自ら書いてくれた文字が使われています。上の写真は、新型のジーンズで白いベルトが付いたモデル(¥37,800)。岡山県で織られた16オンスというヘビーなデニムを使い、縦糸を25回も染めています。もちろん縫製は英国。ハサミを使い、手作業で行われます。裾もパッカリング(縫った時にできる糸の引きつれによる歪み)が出やすいようにわざと縫い目を荒々しく仕上げています。ウエストラインも曲線で、歪みがあるのも独得です。ポケットの内側の生地までセルヴィッジ(耳)付きの共布が使われています。「ワークウエアでもモードでもない、中間の立ち位置が面白いですね」と西藤さん。他にもパンツだけを専門につくる日本ブランド「TUKI(ツキ)」や、他店ではほとんどみない「ヒムカシ」など、希少なブランドが集められています。
パンツしかつくらない「ツキ」。軍用に開発されたコットン素材「バックサテン」を使い、縦糸が黒、緯糸がインディゴ染めされているので、ロールアップすると微妙に色が違うことがわかる。このブランドはシルエットが独得のものが多く、リピーターも多いブランド。¥20,520
思いが込められたものだけを売る
「ブラウン&シードリング」の品揃えの方法は、現代的なショップとはまったく異なります。「古物(こぶつ)と同じ感覚なんです。いいというものがあれば仕入れますし、なければ仕入れません。シャツがまったくないシーズンもありました。それはいいシャツに出会わなかったからです。自分たちが売っていてストレスになるものは売らないんです」と熱い。もちろんセールはまったく実施しません。過去に仕入れた商品と新しい商品が並んで販売されることも。どんどん消費されていくような洋服屋の対極にある店です。個人営業だからできることなのかもしれませんが、確かなファンや顧客を獲得していなければ絶対に続けられません。ここで扱っているのは、どれも特徴ある商品ばかりですが、根っこの部分に時代に左右されない普遍性が備わっています。たとえば靴がその代表例ではないでしょうか。英国「チャーチ」の「ディプロマット」(上段写真、¥77,760)は伝統靴に見えますが、実はこのスエードの素材は特別にオーダーして一年がかりでつくってもらったものです。ブルーのジョージブーツ(下段写真、¥92,664)は、「クイルプ バイ トリッカーズ」というブランドで、「オールドキュリオシティショップ」(シューズ デザイナーとして英国で活躍する木村大太のショップ )が特別な木型を使い、トリッカーズで製作したものです。ブランド名も手書きで、スペシャル感たっぷりの逸品といえます。
ヨーロッパ、特にイタリアなどに地方都市に行くと、必ず個人営業の素敵なブティックがあります。店を構えるオーナーのテイストが存分に感じられ、品揃えも独得で、国を超えて、テイストを超えて、本当に気に入った商品が集めらています。「ブラウン&シードリング」は、まさにそんなショップといえるでしょう。「自分が着たいものだけをセレクトする」という西藤さん。言うのは簡単ですが、それを実践するのはかなり難しいことです。商品に対するこだわりは脱帽するくらい徹底していて、服に関する情報やブランドにまつわる多彩なストーリーが、西藤さんの口からは速射砲のようにざくざくと飛び出します。店のオーナーと顧客が服について語る時間を共有し、そのうえで顧客の手に渡った服や靴、小物は、きっと「特別な」意味をもつ逸品になるはずです。
ヨーロッパ、特にイタリアなどに地方都市に行くと、必ず個人営業の素敵なブティックがあります。店を構えるオーナーのテイストが存分に感じられ、品揃えも独得で、国を超えて、テイストを超えて、本当に気に入った商品が集めらています。「ブラウン&シードリング」は、まさにそんなショップといえるでしょう。「自分が着たいものだけをセレクトする」という西藤さん。言うのは簡単ですが、それを実践するのはかなり難しいことです。商品に対するこだわりは脱帽するくらい徹底していて、服に関する情報やブランドにまつわる多彩なストーリーが、西藤さんの口からは速射砲のようにざくざくと飛び出します。店のオーナーと顧客が服について語る時間を共有し、そのうえで顧客の手に渡った服や靴、小物は、きっと「特別な」意味をもつ逸品になるはずです。
ブラウン&シードリング
東京都中央区京橋1-6-7 京橋高野ビル7F
TEL:03-6228-6989
営業時間:12時~20時(月、火、金)
12〜18時(土、日、祝 )
定休日:木曜日 (2015年1月より、水、木定休)
http://brownandseedling.com/