修行僧の開いた温泉地に立つ「ホテル鹿の湯」が、北海道史を物語る。

写真:佐々木育弥 文:渡辺 芳浩

幕末から開拓へと激動の時を迎えた北海道で、ひとりの修験僧が湯治場を開く。人々を癒やしたいという熱い願いが役人を動かし、道路も通した。 「札幌の奥座敷」、定山渓(じょうざんけい)といえば、北海道を代表する温泉地として認知度は高い。歴史も古く、アイヌ語由来の地名と思う道民は多いが、実は深いゆかりのある僧侶からとられた地名だ。 時代は幕末。岡山県生まれの修験僧が、修行の果てに北海道へ。美泉常三(みいずみつねぞう)、のちの定山(じょうざん)だ。当時、定山渓に温泉が湧き出ていることは既に知られ、探検家の松浦武四郎が入浴した記録も残っている。しかし不便な地に人々が訪れることはできなかった。 ...

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