嫌な男と女が見せてくれる愛の物語、『彼女がその名を知らない鳥たち』

文:細谷美香

『ユリゴコロ』も映画化され、作家・沼田まほかるに改めて注目が集まっています。とても共感できないような人物が登場し、凄惨な事件をめぐる描写が続いたりもするのに、ページをめくる手が止められないという、まさに“イヤミス”ならではの読み応えを感じさせてくれるミステリー作家のひとり。読み進めていくうちに、登場人物に嫌悪感を抱きながら見捨てる気持ちになれないのは、彼、彼女の要素が自分の中にもあるからだと思わせられる、恐ろしい作家でもあります。 『彼女がその名を知らない鳥たち』に登場するのも、嫌な人物ばかり。年の離れた男の稼ぎに頼り、文句やクレームばかり言いながら自堕落な生活を送っている十和子。彼...

続きを読む