【小山薫堂の湯道百選】第五八回
“湯は、人の情けを育む。”
話は昭和30年代(1955〜65年)に遡る。福岡に暮らす農家がある事件に巻き込まれ、金銭的に困っていた。捜査を担当していた警察官は、困り果てた顔を見てこう言った。 「私がこの土地を買って家を建てるから、それで支払いなさい」 妻の大反対を押し切って警察官はその土地を買い、田畑しかないような場所に家を建てた。そして井戸をつくろうと、昔から村を守ってきた地蔵の下を掘ったところ温泉が出た……。これが「博多元湯」の始まりである。風呂はすべて手づくり。それを手伝った長男の安部隆宏さんは、当時小学4年生だった。現在は妻の恵美さんとともにこの湯を守っている。 男湯、女湯ともにこぢんまりとした浴槽...
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