巨匠カエターノ・ヴェローゾの自伝的一冊で、 ブラジル音楽の奥深さを実感。

栗本 斉 (音楽ライター)

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】 1960年代のブラジルに起こったトロピカーリアもしくはトロピカリズモといわれる芸術ムーブメント。その中心的存在であり、いまやブラジル音楽の頂点と称賛されるカエターノ・ヴェローゾの自伝的な一冊である。 まるで謎解きのような序文の後、生い立ちから、ジョアン・ジルベルトとの出会い、妹のマリア・ベターニアやライバルといわれたシコ・ブアルキのことまで、膨大な記憶の断片が独特の筆致で語られていき、読むごとに引き込まれる。なかでも特筆すべきは、やはりトロピカーリア周辺の話題だ。ジルベルト・ジルやガル・コスタといった盟友たちについてはもちろん、時代を追っ...

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