ルネサンスの超人に迫る大著は、好奇心を猛烈にかき立てる。

 『モナ・リザ』『最後の晩餐』『聖アンナと聖母子』――口絵に並ぶのは、美術愛好家ならずとも見慣れた作品である。しかし我々が真に「知っている」と言い切れる作品は、実はなにひとつ存在しない。そのことを改めて認識させてくれるのが、本書である。 第Ⅰ部の評伝では、最新の研究に基づいたレオナルド・ダ・ヴィンチの生涯が綴られる。科学者、音楽家、建築家、軍師、舞台演出家として活躍する彼は、本業たる絵画制作においては、致命的なほどの遅筆であった。そのため出世街道から外れ、人気沸騰中の先輩ボッティチェッリを、手稿の中でひっそりと揶揄することしかできない。契約書を無視した斬新すぎる構図...

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