歴史の中で発掘されぬまま、数多く埋もれている愛を照らす『アンモナイトの目覚め』。

文:児玉美月

【Penが選んだ、今月の観るべき1本】 1840年代、海辺の町ライム・レジスに生きるひとりの古生物学者がいた。メアリー・アニングという名のその女性は、化石収集家に連れられた妻シャーロット・マーチソンと出逢う。心を病んでいたシャーロットの療養を夫から頼まれたメアリーは、それをしぶしぶながら受け入れる。そして浜辺をぎこちなく歩き始めたふたりの距離はやがて縮まり、そう時間もかからないうちに特別な紐帯を結んでいく。 禁欲的な色彩からなる画面は、彼女たちが踏み歩く浜辺の砂利がもついくつかの色だけで塗布されているように見える。美しい旋律は、ごく限られた煌めきの時間にしか鳴り出さない。徹底し...

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