ノマド化したアメリカ白人高齢者、その精神性の深層に迫る傑作『ノマドランド』。

文:宇野維正

【Penが選んだ、今月の観るべき1本】 「本年度のアカデミー賞最有力作品」という前評判だけで本作を観ると、その映画としてのユニークさに面食らう人もいるだろう。本作は日本でも出版された『ノマド:漂流する高齢労働者たち』という、2008年の金融危機で職を失って、キャンピングカーで各地を転々とするアメリカの労働者たちを取材したノンフィクション・ノベルを原作としている。その上で、ここではその労働者のうちのひとりの女性を中心にドラマが展開していく。さらに、アメリカの広大な自然を捉えた美しい撮影から、編集のリズム、抑制の効いた音楽の使い方に至るまで非常にポエティックな仕上がりとなっている。つ...

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