差別を巡る理不尽な矛盾を、魅力的な音楽と映像で包み込む。
本作の舞台は1962年で、黒人の公民権運動が最高潮に達しつつあった時代のアメリカである。 実話をもとにつくられたこの映画の主人公は、ふたり。ひとりは、ドクター・ドナルド(ドン)・シャーリーという天才的な黒人ピアニスト。9歳でレニングラード音楽院に学び、長じてからはストラヴィンスキーに「彼の技巧は神の領域だ」と評されたほどの著名な音楽家である。しかし彼はとても孤高で、内心を気軽には打ち明けない。 もうひとりの主人公は、がさつで無教養だけれども、なんとも人間くさい風貌のイタリア系アメリカ人のトニー。ニューヨークのナイトクラブで用心棒を務めていたけれども、店が改装のために休業し、暇を持て余し...
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