田舎町の3枚の看板から始まった、正義と怒りと死を巡る三題噺。

文:町山広美

「3」の映画である。3枚の看板を巡る、3人の物語。  ミズーリ州の田舎道に立つ看板に、初老の女ミルドレッドが広告を出した。「レイプされて焼き殺された」「逮捕はまだ」「ウィロビー署長、なんでよ?」解決されない娘の死への怒りを、さあ聞けと掲げたのだ。住民と警察は騒然。だが彼女は退かない。  バンダナをハチマキさながら額に結んだ、フランシス・マクドーマンド演じるおっさんみたいなおばさん、その大暴れが笑いを誘う。彼女が「かわいそうな被害者家族」に当てはまらないように、ウィロビー署長も「傲慢で怠惰な権力者」という予見を裏切る。家族想いで、無能で怠惰な部下にも優しい。だが、その優しさと諦観に罪...

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