「幸せの秘訣は、何も起こらないことだ。」―いまこそ静かな情熱とことばに触れたい。『写真家 ソール・ライター』展。

文:坂本 裕子

2006年、ドイツのシュタイデル社が出版した1冊の写真作品集が、世界に大きな反響を呼びました。写真家はソール・ライター。83歳にして「世界デビュー」を飾り、2013年に没した彼のことは、2015年に日本でも公開されたドキュメンタリー映画でご記憶の方もいるでしょう。彼の日本初の回顧展が、渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中です。 1923年、ピッツバーグでユダヤ教ラビの父の元に生まれたソール・ライターは、父を継ぐべく神学校に進みますが、画家になることをあきらめられず、両親の反対を押し切り大学を中退、ニューヨークへ向かいます。1946年、ニューヨークでは抽象表現主義の芸術運...

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