文字盤に美しい模様を描く、知的なクロノグラフ
岩崎 寛(STASH)・写真photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki
腕時計ファンにとってゼニスの「エル・プリメロ」は、ひとつの絶対的な存在である。毎秒10振動の高速自動巻きクロノグラフムーブメントは、腕時計の叡智が行き着いたマイルストーンと言えるだろう。クオーツ全盛の時代を生き抜いた機械式時計の復権の象徴でもある。そのムーブメントの名を掲げたモデルは、神聖さにも似たオーラを放つ。
一方でゼニスでは「エリート」シリーズが、根強い人気を保ってきている。シンプルでノーブルなドレスウォッチの佇まいは「エル・プリメロ」シリーズと対照を成す、もうひとつの特色と目されてきた。そしてその両義的な美点をまたぐ、第3の魅力をもつモデルが「エリート クロノグラフ クラシック」である。
以前からのゼニス信奉者ほど誤解しやすいが、現在「エリート」コレクションは“エリート”ムーブメントだけを装備しているわけではない。「エリート クロノグラフ クラシック」が搭載するのは、紛れもない「エル・プリメロ4069キャリバー」なのである。緩やかなカーブを帯びたケースに抱かれ、すんなりとしたリーフ形の時分針とクロノグラフ機構を駆るのは、10振動の俊足ムーブメントにほかならない。
狼の能力をもちながら「エリートクロノグラフ クラシック」が被る羊の皮は、ひたすら洗練されている。ポリッシュ仕上げのラウンドケースは落ち着いた風情を見せる。ドーム形のサファイア風防を戴く、ベルベットのような極上の輝きを返すサンレイ仕上げの文字盤。ネイビーブルーに近い群青の色味が深く、彫り下げてロジウム仕上げを施した細身のバーインデックスと調和する。そして裏を返せばサファイアクリスタルのケースバックから、腕時計好きの誰もが価値を認める名ムーブメントの全景。クラシカルなしつらえと、歴史的な高性能高速キャリバーは、実は相性がいい。それは一本の腕時計が持ち得た、ふたつの優れた個性に見える。
エリート クロノグラフ クラシック