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アート+環境+建築が生む 空間の新しいつくり方。
Norihisa Kawashima+Keika Sato/ARTENVARCH
建築では環境に配慮するのは当たり前になっているけれど、その方法論についてはみんなが試行錯誤している。アーテンバークの2人が環境に関心をもつようになったのは、近年の建築のあり方に対する疑問からだった。
「日本は自然が豊かなのに、自然と建築の結びつきを大切にしていないように思います。近代建築では自然との境界線をつくり、閉じた空間で内部環境を制御しようとしてきました。でも、いまならコンピューターによる環境解析を設計に取り込むことで、省エネで、かつ、自然に対して開かれたデザインが可能になっています」
彼らは建築をデザインする際、シミュレーションで太陽や風との関係を検討し、場所と使われ方に合った自然とのつながり方を模索する。その際、大きな影を落とし、ビル風も発生する高層ビルのような大規模な建築で周辺に配慮するのは当然だが、小さな住宅でも内部環境の快適さはもちろん、外部=都市環境も快適にすることを試みる。たとえば、所沢の住宅では大小の正方形の箱を45度回転して積み、適切な位置に配置することで室内への採光や通風をよくすると同時に、隣家へ落とす影を小さくし、風を止めず、街路に対する圧迫感も軽減した。建築だけでなく、半透明で軽い素材と映像や光・音による、期間限定のインスタレーションも手がけている。
「建築史家レイナー・バンハムは、著書『環境としての建築』で空間のつくり方には2種類あると言っています。ひとつは木で小屋などのシェルターをつくる方法。もうひとつは木でたき火をおこすという方法です」。建物をつくらなくても、火をたくとそこに人が集まる。彼らのインスタレーションは、プロジェクターなどの機械を用い、エネルギーを使って一時的な空間を出現させる現代のたき火だ。
「六本木ヒルズでは頭上を半透明のテキスタイルでできた円錐が上下するインスタレーションをつくりました。雲などの自然のような存在で、人は改めて空を見上げることになる。吉祥寺駅前のインスタレーションは、人々が普段、意識しない空き地と、多様な人を許容する街の包容力に気づくきっかけになったのでは、と思います」。シェルターとなる構造とエネルギーをシンプルな操作で扱って建築や空間を変え、人々の意識や行動を変える。情報があふれる現代での、新しい空間のつくり方だ。
『Glacier Formation』。AGC旭硝子のミラノサローネ2015の展示。映像を投影できるガラスの特性を最大限に活かした空間。photograph by Ayako Nishibori
© LUFTZUG
『Diagonal Boxes』2016年。45度回転した正方形の箱を積み、環境・都市とつながりながら家族の関係性をつくる住宅。photograph by Yutaka Suzuki