何かマジックが生まれる、それがジャズの面白さ。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
伊藤なつみ・文
text by Natsumi Itoh

何かマジックが生まれる、それがジャズの面白さ。

挾間美帆 Miho Hazama
ジャズ作曲家
●1986年、東京都生まれ。5歳からモダンバレエ、7歳からピアノやエレクトーン、作曲を習い始める。国立音楽大学作曲専攻卒業後、ジム・マクニーリーが教鞭をとるマンハッタン音楽大学院を卒業。2012年アルバムデビュー。15年にBMIチャーリー・パーカー・ジャズ作曲賞を受賞。

挾間美帆の陽気で人懐っこい性格は、転校が続いた幼少期に培われた。好奇心が旺盛なのは、どこへ引っ越してもモダンバレエとヤマハの音楽教室を続けていたからかもしれない。ダンスではワールド・ミュージックなど枠にはまらない音楽を体感し、エレクトーンでは演奏するために日常で耳にする曲を譜割りしていくことが作曲の下地になっていった。そして小学4年の時にNHKの大河ドラマ「秀吉」を見て、「日本史と音楽とオーケストラが混ざっていてうらやましい」と、次第に作曲家になりたいと思い始めたという。 

転機は大学4年の時。ジャズ・ピアニスト/作曲家である山下洋輔の曲をオーケストレーションする機会に恵まれ、山下と指揮者の佐渡裕から「君はこういうことをやったら面白いから、もっと自分を表に出すような活動をしてもいいと思う」と、後押しされたという。卒業後には「会えたら、自分の何かが変わるかも……」と、尊敬する海外の作曲家に会いたい一心でニューヨークへ留学。卒業リサイタルの時にジャズバンド、m_unitを結成した。 

いまも一緒に活動するそのバンドは、13人によるユニークな編成だ。「曲を書く前からその人の演奏のことはよくわかっているので、その人たちの音色やプレイを狙って書くこともあります」と、弦楽奏者やビブラフォン奏者も欠かせない仲間として参加している。
自分の性格については、「一匹狼。わりと適当で楽観主義かな」と、笑う。コンサートでは指揮者として壇上に立つが、演奏者がインプロヴィゼーションを始めると着席し、演奏を楽しむことも。「何か別のマジックが生まれてきたりするところがジャズの面白さだと思うので」と話すように、緻密に構築する一方で、自由度が高く臨機応変なのも彼女の魅力だ。曲に関しても「自分の頭の中に自然に流れてきたメロディが、たまたまそういう譜割りをしている」と、複雑な変拍子を感じさせないほど華麗なフレーズを描いていく。 

拠点はいまもニューヨーク。「ニューヨークに住んでいると、ますます自分の価値というものに対して考える時間が増えたし、街を歩いているだけでインプットできるものが身近にあふれているのも好き」と、刺激を楽しみながら日々作曲に没頭している。いまだ20代。挾間美帆という名の新しい音楽に注目したい。

works

最新作『タイム・リヴァー』は、13人編成のm_unitによるセカンド・アルバム。ジャズの新しい可能性を感じさせる。

2014年7月13日、ブルーノート・ニューヨーク公演のライブ写真。自らコンダクトする姿から、その楽しさが伝わってくる。photo:Takehiko Tokiwa

※Pen本誌より転載
何かマジックが生まれる、それがジャズの面白さ。