「東京蚤の市」で見つけた注目ショップ

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗
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あたらしい骨董店 Vol.3:いまの気分を反映した新しいスタイルの骨董を紹介するシリーズの第3回は、アンティーク好きが心待ちにする祭典「東京蚤の市」をレポートします。

「アンティークブーム」を象徴するビッグイベント

ライブイベント、トークイベントなど会場を盛り上げるテントステージ。

会場である東京調布市の京王閣を包み込む人の波と熱気。入り口から歩いていくと、イス、照明、棚などの家具から、食器や古着、ファブリックなど、世界中の古いもの、めずらしいものが次々に現れて、目を楽しませます。しかも値段もお手頃。大切に集めた古いものの温もり、手づくりの食べ物、活版印刷や古書に目を向けるお客さんたち、同好のスタッフなどが相まって、人は多いですが、手づくりの和やかなムードが醸し出されます。

2年前に始まり、今回5回目を迎えた「東京蚤の市」は過去最高2万5千人の来場者を記録しました。出店者数も1回目の70組から今回200組に増えています。主催する編集チーム・手紙社の加藤周一さんは「海外の蚤の市のように気軽に古いものが見られるマーケットを」という発想から東京蚤の市を始めたといいます。

「もともと手紙社は、ものづくりの野外マーケット『もみじ市』というイベントを主催していたのですが、そこから派生し、古いものや暮らしに根づいたものに特化した市として企画しました。けれども、“古い”という意味を広く捉えることで、それにまつわるイベントやワークショップなども多く開催し、さらに美味しい食事を提供してくれるお店にも出店いただくことで、会場の雰囲気を演出しています。そのためか、屋外レジャーとして楽しむファミリーも多いですね」

出店者は自分たちで地道に探し、実際に決まった2倍以上の方に声を掛けたそう。

「新しいものがよいという価値観が変化し、古いものの傷を愛しく思ったり、醸し出す存在感を肌で感じ取ったり、本能的に惹かれる人が増えている気がします」という言葉に、主催者として出店者とお客さん両方に誠実に向き合って、イベントをつくり上げてきた実感がこもっていました。

アトラスの展示風景。もはや定番となりつつあるクレイユ・エ・モントローのオクトゴナル(八角形)の端正で、彫刻的なプレートやティーカップが美しい。
南フランスのムスティエの陶器。貴族への献上品として、当時の技術の粋を尽くしてカットワークが施されたプレート。¥28,000
人いきれの中でも、整然と並べられた白い陶磁器とガラスが涼しげで、ひときわ目を引いたのが、ATLAS(アトラス)。店主の飯村弦太さんはヨーロッパの美術工芸品を扱うアンティークショップで修業した後、独立。フランスのテーブルウェアを中心としたセレクトにも、そこはかとなく品のある華やかさが感じられます。特に最近は18~19世紀の貴族やブルジョワの食卓で使われていた食器に力を入れているとのこと。よく見かける定番的な日常雑器より、明らかに薄手で繊細なクレイユ・エ・モントローなどのうつわがリネンクロスの上にディスプレイされ、フランスの香気を放っています。かといって、ごてごてと装飾的で、いまの暮らしに合わないものでは決してありません。それは、白いうつわが主なこと、いまに通用するクラシックなデザインを選んでいるからでしょうか。飯村さんの抑制された美意識が際立ちます。料理を盛った時にどう見えるかも計算しているそうで、料理のプロに人気があるのも納得。ハレの日の食卓にエレガントなアクセントとなりそうなうつわです。
店主の飯村弦太さん。

上段写真、上:来場者は前回よりも1万人も増え、入場待ちの長蛇の列も。イベントとして、いまの北欧のものづくりを特集した「東京北欧市」も開催した。


ATLAS

千葉市中央区新宿1-5-29丸新ビル3F

TEL:043-377-0530

営業時間:11時~18時

定休日:水、木

http://atlas-antiques.com

やわらかな感性でアンティークと付き合う

デザイナーなどに人気というドイツのインゼル文庫¥3,000~。装丁と細密な挿絵の印刷が美しい。特に、鉱物や貝、鳥類など、博物図鑑のシリーズは人気が高い。
シンプルで、親しみやすい小物が並ぶle trot(ルトロ)。ドイツやオランダ、フランスの蚤の市で買い付けた、日常使いのうつわやカトラリー、薬を入れていたというガラス瓶やポットが並びます。旅が好きで、旅先の蚤の市で古いものを見つけては買っていたという地脇奈々子さんが会社勤めを辞め、店を始めたのは2012年。ともすると、骨董店主も愛好家も男性で、男の世界になりがちなこれまでの骨董・アンティーク。まして、ヨーロッパに直接買い付けに赴き、店舗をもたず市を中心に出店するとなると、常に重い荷物を抱えての移動を伴う重労働です。その世界に、旅好きのしなやかな感性と持ち前の好奇心で飛び込んで、見つけてきたものは、みずみずしく、いまの生活に取り入れやすいものばかり。デザインを学んでいたという彼女らしい現代的なセンスにあふれています。古いものにこだわっているわけではないという地脇さん。お気に入りは、ドイツのローゼンタールで19世紀につくられた花型デミタスカップのリプロダクト。旅先で掘り出し物を見つけた時のうれしさを共有できるような清新なショップで、店主と話をしながら、旅行気分に浸るのも一興。
接客をする店主の地脇奈々子さん。

上写真:フランスのシェルスプーン、クリストフルなどのシルバーカトラリー、ローゼンタールのデミタスカップ(¥2,000)などが細やかに配置。


古道具 ルトロ

※実店舗はなく、大江戸骨董市などイベントを中心に出店。

http://le-trot.com




独特のセンスでディスプレイされた古道具。蛇の目マークの繭袋、メッシュの灯芯など、昔のものをいまの視点で見つめ、受け継ぐ。
水中を覗く箱眼鏡の上に載せられているのが擬卵。手に取ると重みと温かい感触に驚く。河村仁美さんによるコドモシャツ(¥4,800~)は、古布を使って仕立てたもの。
「古い家に移り住んだことがきっかけで、古いものを残していきたいという気持ちが芽生えました」と語る、古道具の店 ナイマの柏 景子さん。集められたのは、蛇の目文様が押印された繭袋や土でできたビー玉、鶏の産卵をコントロールするため使われていた擬卵など、一見何かわからない不思議なものばかり。その昔、日本で日常的に使われていたけれど、忘れられてしまったものたちが、柏さんの眼で選り集められ、時間を偲ばせる美しいオブジェとして再編集され、いまにそっと差し出されているよう。本来の用途から自由になったものたちからは、繊細ではかない詩情が立ちのぼります。美大で油絵を専攻していたという柏さん。古いものの痕跡を読み取る感性が豊かなのだと思います。選ぶもの、飾り方、取り合わせ次第で、骨董は心を遊ばせる創作行為にもなる。古いものとの新しい付き合い方を気づかせてくれるお店です。
店主の柏 景子さん。

古道具の店 ナイマ

※実店舗はなく、オンラインショップの他、骨董市などのイベントに出店。

http://www.naima.jp

新機軸を打ち出す古物店。

照明は左から¥6,500、¥8,000、¥10,000
韓国の芋麻の端切を縫い合わせたポジャギ¥8,000。細やかな手仕事の跡がうかがえる。

錆びたスプーン、退色した紙箱、かすれた墨塗りの和紙貼りの籠、張り子の動物玩具……。mabsau(マブサウ)で扱っているのは、かなり時代がついた古物たち。ともすれば錆びて汚れたものですが、見方を変えれば渋い味わいになります。そのきわどいラインを見きわめて、金属、紙、木、布など素材の素の表情を引き出すのが、坂本善明さん。時間の経過によって角が取れ、丸くなったものたちは、日本のものもアジアのものも、違和感なく混ざります。mabsauとは、移動を繰り返し、その昔、日本に渡ってきたとの説もある少数民族ミャオ族の言葉で、異民族の寄せ集めという意味だそう。民芸への関心もあり、日本とアジアの民族の古きよき時代の道具を集めたいと思って名付けたといいます。見たこともない各地の民具たち。遠い昔の技術や生活へ思いを馳せ、ものに蓄積した時間を愛でる。脈々と続く古物愛好家の精神と独特のテクスチャーへのこだわりが新しい表現を予感させます。


上写真:左上はタイのモン族の民族衣装のスカート¥12,000。色鮮やかな刺繍が目を引く。


mabsau

横浜市南区高根町3-17-3 M2号室

TEL: 045-241-2757

営業日:土曜のみ。平日は予約制。

営業時間:13時~19時

http://mabsau.com




パンジー、ユーカリなど、植物のディテールが際立つ押し花標本。¥1200
縄文土器(¥35,000)にたっぷりと活けられたヤエヤマヤシノミ。乾いた土器が色づき、艶めく。

古道具店と花屋という異色の組み合わせが「はいいろオオカミ+花屋西別府商店」。日本とロシアの古道具を扱う「はいいろオオカミ」と原種のフラワーアレンジを中心とした「花屋西別府商店」が共同出店しているのです。縄文土器や海から発掘したガラス瓶を花器に見立て、活け込んだプレゼンテーションは、古物と生花双方の魅力を引き立てます。生命力と存在感のある場が出現し、思わず足を止め、引き込まれる人が多数。もともと、「はいいろオオカミ」の企画展として、一緒にやることがあったという2人。いま生きている植物と時間を経た古いものの相性がよいことに気づき、お互いの感性も合って、合同店舗を構えることになったといいます。その東京・青山にある実店舗は、このシリーズの次回に取材を予定。ご期待ください。


はいいろオオカミ+花屋西別府商店

港区南青山3-15-2 マンション南青山102

TEL:03-3478-5073

営業時間:11時~20時

定休日:無休

http://haiiro-ookami.com




……骨董初心者にとって、どこの店で買うかというのは重要です。ものを見る眼が養われておらず、知識もなく、そのものだけで判断するのが難しいとき、店主の感性が自分に合うか、その人が選ぶ物だったら買いたいと思うかは、ひとつの指標になるからです。直接店に行くのが、なかなかに勇気がいることであれば、まずは骨董市が最適です。いろいろな店を見比べて、テイストを掴み、値段の相場感も把握できるでしょう。

「東京蚤の市」のようにいまの旬の店が集まる巨大マーケットは他にありません。お気に入りの店を見つけ、店主と話してみる。歩いているうちに、だんだん好みのものが目に入ってくるようになるはずです。いくつもの店を回っているうちに、質のよい店、価格が安い店が見えてきます。そうやって、自分好みのものを体系化していくのもアンティークの面白さ。このイベントは絶好のフィールドです。いよいよ今秋には、関西にも進出が決まったそう。アンティークが気になっている人は、ぜひ10月の「関西蚤の市」、11月の「東京蚤の市」に足を運んでみませんか。



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