57もの超絶機能を搭載! 史上最も複雑な機械式時計とは。

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:笠木恵司
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創業260周年を迎えたスイス最老舗のブランドが、途方もなく複雑な機械式懐中時計を発表。ヴァシュロン・コンスタンタンならではの技術力を注いだ、最高傑作「リファレンス57260」の魅力をひも解きます。

表裏2つの文字盤に、計57もの複雑機構を搭載する「リファレンス57260」。表示要素が多いにもかかわらず、機能的かつ美しいダイヤルデザインを実現。

複雑な機能を数多く搭載したグランドコンプリケーションは、いわば機械式時計の「華」とも呼べる存在であり、価格も億単位ということから時計ファンの憧れというべきもの。過去にも1728個の部品を搭載し、33の機能を有するモデルがありましたが、ヴァシュロン・コンスタンタンではこれをはるかに上回る「リファレンス57260」を開発しました。


時計とはいっても、18Kホワイトゴールド製のケースは直径98mm、厚さも50.55mm。ポケットにはとても入らないボリュームですが、その中には2800個以上の部品が精密に組み込まれており、なんと57もの機能を備えています。「時計史上最も複雑な機械式時計」の記録を四半世紀ぶりに大幅更新した、輝かしいレコードホルダーなのです。

マニュファクチュールとしての技術を凝縮した、自社開発の新型キャリバー「Cal.3750」。下部には精緻なトゥールビヨン機構が確認できる。

しかもこれまでのものが重量1.1Kgとされているのに対して、この「リファレンス57260」は960g。表示に使用する回転ディスクをアルミニウムにするなど、素材面でも軽量化を図った、21世紀にふさわしい複雑時計といえるのです。

このモデルを開発したヴァシュロン・コンスタンタンは、1755年にスイス・ジュネーブで創業。以来、一度も途切れることなく時計づくりを続けてきた世界最古のマニュファクチュールです。昨年で創業260周年を迎えましたが、18世紀に活躍した時計職人=キャビノティエの卓越した技術を継承しながらも、革新的な開発姿勢を貫いてきたブランドを代表する、掛け値なしに超絶的な最高傑作といえます。

オリジナリティ豊かな、多数の新機構を搭載。

世界一複雑な「リファレンス57260」の表面(第1ダイヤル)。12時位置のローマ数字が時間、中央のブルースチール針が分を示し、6時位置にスモールセコンドを配置する。

さて、どこが凄いのか。基本的な時間表示から見ていくと、時・分・秒表示をそれぞれ独立させたレギュレーター式になっており、これを動かす心臓部が、3軸で立体的に回転するトゥールビヨン。時計の裏側(第2ダイヤル)にあたりますが、6時位置の大きな窓からトゥールビヨンの繊細な動きを見ることができます。さらに、テンプを往復振動させるヒゲゼンマイが平面でなく球体になっており、その伸び縮みが、まさに機械仕掛けの心臓とでも表現したいほど美しいのです。


また、2つのレトログラード機構によるラトラパンテ・クロノグラフ(第1ダイヤルの秒針両側にある極細ブルースチール針)も史上初の機構。2本のクロノグラフ秒針を使って中間タイムなどを計測できる機構ですが、ダイヤルの両側にそれぞれの表示が分かれており、針が絶対に重なることのない「分離型」スプリットセコンドという仕様になっています。

左:球体ヒゲゼンマイを採用したアーミラリ天球儀トゥールビヨン。右:表示が切り替え可能な、グレゴリオ暦&ISO 8601ビジネスカレンダー。

ワールドタイムや第2時間帯表示に加えて、特に充実しているのが各種のカレンダー機能です。4年周期の閏年表示を備えた永久カレンダーはもちろん、ムーンフェイズも修正が必要になるのは1027年に一度という超高精度。さらに国際規格のISO 8601に準拠したビジネスカレンダー表示もあるので、たとえば9月17日の木曜は曜日窓で「4」、週表示の針が38(第38週目)と示してくれます。日付のミスや誤解が許されない国際金融部門などで使用されている表記方法になります。

そのほか、複雑なユダヤ暦の永久カレンダーや、日の出・日没などがわかる天文暦カレンダー機能も搭載。このように表示要素が多いにもかかわらず、ダイヤルは機能的に整理されており、視認性はもちろん、デザイン的にも極めて優れた仕上がりになっていることに感心せざるを得ません。

熟練時計師3人が奮闘し、8年の歳月を経て完成。

「リファレンス57260」の裏側(第2ダイヤル)。天文暦やワールドタイム、均時差などを表示。6時位置の窓には3軸のトゥールビヨンがのぞく。

卓越したデザイン性を象徴するのが、これも新しい機構ですが、ケース側面の4時位置にある「埋め込み式アラーム巻き上げリューズ」。アラームを鳴らすゼンマイを巻き上げるためのリューズを、指で押すだけで出し入れできる仕組みになっており、普段はケース内に格納されています。エレガントで美しいフォルムを損なうことがないように、突起を巧妙に隠しているのです。

このアラームに加えて、5個のゴングを5個のハンマーで鳴らすウェストミンスターカリヨン・ストライキングやミニッツリピーターなど、「音響」系も充実。史上初のサイレンスモードも備え、これらの複雑で多彩な機能をたったひとつのムーブメントで駆動するということにも驚嘆します。ちなみに、パワーリザーブは約60時間(毎秒5振動、手巻き)。針は表側で19本、裏側(第2ダイヤル)でも12本で合計31本にも達しています。

左:ケース側面に格納される、埋め込み式アラーム巻き上げリューズ。右:ウェストミンスターチャイムと、消音設定できるナイトサイレンス機能。

この想像を絶する世界唯一のモデルは、ヴァシュロン・コンスタンタン社内の時計師3名で構成されたチームが8年以上の歳月を費やして完成までこぎつけたもの。その始まりは、同ブランドのビスポーク(カスタムオーダー)サービス「アトリエ・キャビノティエ」を通して、ある顧客が「世界一複雑な時計」を依頼したことからでした。このため、時計には顧客の名前が刻印されていますが、「極秘」ということで明らかにされていません。開発プロジェクト自体も、数名の幹部社員だけが知るなかで進められてきたそうです。

納品直前に日本でたった1日だけお披露目の機会が与えられましたが、それ以降は顧客の私物として所蔵されるため、容易に見ることができなくなります。ユダヤ暦を特注していることから、時計に詳しいユダヤ系の超富裕層ということまでは想像できても、それ以外のことはまったくわかりません。今後はあまり披露されることはないだろうと思われる、この複雑な機械式懐中時計。実に美しいディテールを秘めた超逸品といえます。(笠木恵司)

ヴァシュロン・コンスタンタン「リファレンス57260」
ムーブメント:手巻き
ケース素材:18Kホワイトゴールド
ケース径:98.00mm
ケース厚:50.55mm
総重量:960g
パワーリザーブ:約60時間
※カスタムオーダーで製作されたユニークピース

●問い合わせ先/ヴァシュロン・コンスタンタン TEL:0120-63-1755
http://www.vacheron-constantin.com