新旧のアメリカと伝統工芸が混在する話題のショップ「CPCM」の魅力とは?
2015年11月28日、神宮前交差点のすぐそばにクラフト&カルチャーショップ「CPCM(シー・ピー・シー・エム)」がオープンしました。ディレクターを務めるのは、スタイリストやフォトグラファーとしてだけでなく、ファッションブランドを手がけ、さまざまなショップのディレクションも行っている熊谷隆志さん。熊谷さんといえば2014年に東京・駒沢にオープンした「WIND AND SEA」が記憶に新しいですが、10坪というミニマムなパーソナルショップだった同店に対し、「CPCM」は926㎡を誇ります。普通であればいくつかのテナントを入れ、複合的な施設として展開するくらいの広さを有していますが、「CPCM」にはすべて熊谷さんが旅をして買ってきた物だけが並びます。「この店は実験」、そう語る熊谷さんに「CPCM」の店づくりに対する思いを聞きました。
伝統工芸を、日々の生活に落とし込む。
「CPCM」という店名は、「Crafts and Permaculture Country Mall」の頭文字を取ったものです。直訳するなら「工芸と生き永らえる文化を展開する土着した大きな商店」となるでしょうか。移ろいやすい流行、ファストファッションの台頭、ライフスタイル。「CPCM」のコンセプトは、そういったファッションを取り巻く状況や言葉とは相反するようなものであると熊谷さんは言います。
「クラフトと洋服を一緒にしてはいけないという風潮が何となく感じられたんです。でも、洋服を好きな人はクラフトが好きになるし、クラフトが好きな人は洋服が好きになるんですよ。この広いスペースを全部洋服にしてしまってはもったいない。伝統工芸っていうのは普段は地方の物産展とかに行かないと見られないものですが、だからこそこういうお店にあるというのがいいんじゃないですか。若い人も買ってくれるんですよ」
クラフト、工芸という言葉を聞くと、深い伝統や歴史が背景にある崇高な物、なかなか手が出にくい物と思ってしまいがちなのかもしれません。しかし、熊谷さんはそれを日々の生活に落とし込んでもいいと言います。「堅苦しいと思われがちな南部鉄器だって実はそうではないんです。鈴木盛久工房(寛永2年に創業した南部鉄器の鋳物師)がSIMPLICITY(建築、インテリア、 プロダクトなど多岐にわたるデザインオフィス)とコラボレーションして蚊取り線香をつくったり、伝統工芸のなかでも新しい動きを見せているところもあります。それを皆に知ってもらえたらと思っていますね」
1階のエントランスをくぐると、右手にはカジュアルな「CPCM」のオリジナルアイテムが並び、左手には熊谷さんが「自宅のクロゼットの2ラックくらいを占める」と言う「RTH」がショップインショップを展開しています。その先にあるのが鈴木盛久工房を中心とする工芸品が置かれているエリア。この新旧を見事に融合させた空間こそが熊谷さんが目指したものでした。
2階へと続く階段には壁一面に大きな絵が描かれています。これは熊谷さんがアメリカ・ポートランドを訪れた際に、さまざまなアドベンチャー、アクティビティ向けのウエアを扱う「POLER」というショップで出合ったペインター、ローリー・ディーさんの作品。
「『POLER』に壁画が飾られていて、誰の作品なのかスタッフに聞いたんですよ。そしたら彼女(=ローリー・ディー)に電話してくれて、その日のうちに会いに行き、『CPCM』をオープンするから絵を描いてくれと依頼をしました。最初は『えっ!?』って感じのリアクションをされたんだけど、2週間後くらいに返事がきて描いてくれることになったんです」
描かれているのは山岳地帯にある曲がりくねった一本道の中心に“CPCM”と書かれたテントを張っている熊谷さんの姿。熊谷さんはこれまで、1990年代末の「GDC」を皮切りに、「WILD LIFE TAYLOR」、「BIOTOP」、「NAISSANCE」、「WIND AND SEA」というさまざまなブランド、ショップをデザイナー、ディレクターとしてつくってきました。それと同時にバイヤーとして世界中を旅してきた軌跡がこの壁画、そして「CPCM」の世界観から感じ取れます。
「『CPCM』はつくられたものでも、カテゴライズされたものでもない。だから、いろんなバイヤーさんに世界中に行って集めてこいって言っても、これは集められないと思いますよ。自分で半年以上かけていろんなところを訪れ、身体を使って買い集めたもので出来上がったものなので、これが真似されるとも思っていません。『CPCM』はこれからもどんどん育っていくお店なんです」
「もっと過激に、アバンギャルドなアプローチをしていきたい」
熊谷さんのオルタナティブな感覚が最も体現されているのは、やはりプライベートな場所、つまり熊谷さんのご自宅でしょう。数多くのメディアで取り上げられるほど、その空気感は独創的。温かい日の光と淡い照明が照らす室内には、長い時間の経過を感じさせるインテリア、オブジェ、絵画、写真などが所狭しと飾られています。異国感とも無国籍感とも違う、熊谷さんにしかつくることができない有機的な空間ですが、それをモチーフに構成されているスペースが「CPCM」の2階奥にあります。棚には貴重なインディアンジュエリーが並び、壁には圧巻の巨大な角牛のはく製、天井には鹿の角でつくられたランプシェード、さらにヴィンテージのソファなどが飾られる、その場所です。
また、「CPCM」は店名に“MALL”と付けられていますが、各セクションが一体になっていて、いわゆるショッピングモールとは違った店内構成となっている点も特徴といえます。
「大体ショッピングモールっていうのはお店ごとに打ち切られていますけど、ここは1階と2階で世界観が分かれていて、仕切り目がないんだけれども、コンテンポラリーとヴィンテージの作家の物が同居しています。『CPCM』をつくる際にオーダーとして言われていたのは“アメリカ”という一言だけ。あとはお前に任せたって言われたから、他にはない店をつくらなきゃと思ったんです。だからアメリカ人が選びそうな南米の物もあれば、スカンジナビア系の物、ミッドセンチュリーの物も混ざっている。でも、ストイックになると堅い店になっちゃうんで、こけしとか、だるまとか、カバの陶器も置いてるんです。笑いを取りたいからね(笑)」
「お店ができるといろんな人からいろんな意見が出てくると思うんですよ。あれが売れるからあれを置いたほうがいいとか。大抵、ディレクターっていうのはそういうのに負けるんですね。それを真に受けてしまうと仕入れに影響しちゃうから、店って駄目になると思う。だからしばらくは我を通しながらやりたいと思っています。そしてもっと過激にいきたいよね。もっとアヴァンギャルドなアプローチをしていきたい。年代でもさまざまなアヴァンギャルドの定義があると思うんですけど、それぞれを僕なりのミクスチャーな形にして店に反映させたいですね」
アメリカ・ミシガンのウォルター・ブレア・トムによる壊れたサーフボードやスケートボードを使った作品など、ユニークな作家のアートピースも多数飾られている「CPCM」。今後はさらにショップの枠を超え、熊谷さんが気に入ったアーティストの個展も開く予定だということです。(大隅祐輔)
CPCM
東京都渋谷区神宮前6-12−22 1&2F
TEL:03-3406-1104
営業時間:11時~20時
定休日:第2木曜、第3木曜
http://cpcm-shop.com