YAECAの一軒家ショップ、その誕生を追います 【前編】

  • 写真:江森康之
  • 文:高橋一史
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飽きずに快適に着られる日常着が評判の「ヤエカ」がチャレンジする、新発想ショップの全貌に迫ります。

閑静な住宅街の中で

4月末頃オープン予定の新しい店舗予定地は、東京・白金高輪の西洋ふう一軒家です。暖炉まである2階建ての家屋で、以前はフランス人家族が住んでいたそう。今回、施工前のがら空きの室内をご案内していただいたのは、メンズでは広報を担当する井出恭子さん。物件について、このように言い表します。「まったくお店などない住宅街の中、古い塀を見ながら歩いていくと時間の流れが変わっていくような、気持ちのいい違和感のある場所です」。

都営三田線と東京メトロの南北線が通る白金高輪駅から徒歩10分以上の距離にあり、近隣にはファッションのショップはおろか飲食店すら見当たりません。初めて訪れた人は、閑静な高級住宅街の一角にこの店があることにきっと驚くでしょう。


上段写真:施工前のエントランスは住宅そのもの。

庭もある広い1階フロア。天井の断熱材を剥がした状態。
広いスペースを確保した最大の目的は、1930~70年代のフランス・アンティーク家具を並べたかったからとのこと。この家に決めた理由について、ヤエカのクリエイティブ・ディレクター&デザイナーの服部哲弘さんに話を伺いました。
「物件が出たことを聞き、初めて見に行ったのが今年1月後半。ショップにすると決めたのが2月ですから、本当に急に進んだ話なんです。以前からなるべく一軒家という条件で物件を探していました。フランスのアンティーク家具をヤエカのオフィスで使っており、個人的にも大好きなので、販売する店が欲しくて。フレンチモダンの椅子や照明器具は垢抜けた魅力があり、でも日本で取り扱う店が少ないんですよね。このようにある種のラグジュアリーなものを、新たに提案したいのです。白金高輪の住宅街は、東京の港区なのにローカルな空気感がある点が気に入りました。『僕なら行ってみたい』と思ったのが、ここに決めた理由です」
図面を手に、暖炉の前で計画を説明する井出恭子さん。
車であれば白金のプラチナ通りや広尾から10分ほどで来られます。チャレンジングな試みですが、誰もやっていないことをやってしまうのがヤエカなのです。

革新的な定番コンフォートシャツ

ヤエカの服のベースにあるテーマは「コンフォート」です。リラックスしたナチュラルなファッションを、10年以上前のブランドスタート時から手がけています。中でもアイコニックな一着が「コンフォートシャツ」。伝統的なメンズシャツの襟やカフスを踏襲して、ボタンを留め外ししやすいスナップに変更しています。シワくちゃに着ても味がある薄い生地を採用し、従来のシャツのイメージを超えたTシャツ感覚の服になりました。このシャツは“日常の道具”としての新しい服の発明といっても言い過ぎではないでしょう。さらに、両脇にスラッシュポケットがついており、上着代わりにも使える着回し自在なアイテムでもあります。


上段写真:小部屋に分かれた2階。壁を抜いて部屋を広げるなどの改装が施される予定。

毎シーズン新作が出る定番のコンフォートシャツ(¥17,000~)は、シルエット違いで2型ある。高級感のある織りネームにも注目。
服部さんは、過去にファッションのスタイリストをやっていた経験があります。彼がブランドスタート時について語りました。「2002年に、コンフォートシャツとパンツを合わせた10型ほどのラインアップでヤエカを始めました。ちょうど、アノニマスデザイン(匿名性デザイン)が注目され始めた時代です。『クロージング』というよりは『プロダクト』的な服をつくりたかった。ですから、いまでもヤエカが“お洒落な服”と言われることには違和感があるんですよね(笑)。白、ブルー、ストライプのシャツ、チノパン、ポケットつきTシャツなどは、いまでも定番的につくり続けています」。
旧式織機で織られたオリジナル生地の定番ワイドチノ ¥19,000、スウェットシャツ¥19,000
コンフォートシャツの両脇ポケットのデザインには、知られざるユニークな発想があります。「最初は左脇だけにポケットをつけていました。メンズのシャツは胸にひとつだけパッチポケットがついていますよね。ヤエカではその代わりとして、脇の内側にポケットをつけたのです。つくり続けるうちに進化していき、現在のように両側にポケットを配するようになりました」。
一軒家の新ショップで販売される服の構成はまだ決まっていないようですが、このシャツはきっと扱われるでしょう。ぜひ、全国一の品揃えでバリエーション豊かに並べていただきたいですね!

スタッフの気持ちに突き動かされて

ヤエカは、デザイン業界の人や雑誌エディターらに特に人気が高いブランドです。永遠性のある服はもちろん、店で取り扱うプロダクトやフードが確かな目で選ばれていることもブランディングに大きく貢献しているのでしょう。しかし、服部さんはブランドの世界観を構成する要素について「作為的なものではない」と言います。「現在、中目黒のショップ『ヤエカ アパートメント ストア』で販売している、クッキーなどのオリジナル・フードブランド『プレーンベーカリー』は、社内の女性スタッフの手づくり商品です。彼女は元はショップのお客さんで、のちにスタッフになったのですが、オーガニックのレストランで料理長までやった経歴があるんです。せっかくだからその能力を活かそうと考えて始めたのがプレーンベーカリーです」。


上段写真:1階のキッチンスペースも改装して、オープンキッチンにする計画。

フランスの修道院でつくられたキャンディとはちみつ。
同じく修道院で生まれたキャンドル。
新ショップでは、プレーンベーカリーの一貫として、フランスの修道女の手づくりはちみつ、キャンディ、キャンドルなどをいくつかの修道院から直接仕入れ、扱う予定です。「震災後でしょうか、ピュアなものにより気持ちが惹かれるようになりました。修道院でつくられる製品をみなさんにご紹介したくて、今回ようやく実現にこぎつけました」。
フレンチモダンの家具を展開することを決めたのも、社内スタッフの力が大きかったそう。「僕が通っていた小さな家具屋さんがありまして、そこの店主が、ヤエカの一員になりました。彼はもう、本当にフランス家具が大好きなんですね。その気持ちに突き動かされて取り扱いを決断したのも事実です」。
「ヤエカ アパートメント ストア」で販売されているカトラリー。新ショップで置かれるかどうかは未定。
いま求められているライフスタイルと合致するヤエカは、スタッフとのコミュニケーションから成り立つブランドのようです。ファッションとは縁遠い地域に新ショップをつくることへの不安も、スタッフの熱意が解消してくれているのかもしれません。
「社内スタッフは、みながとてもマジメに働き、辞めていく人もいません。そして、彼らが今回の新しい店に対して気分が盛り上がっているのを何より頼もしく感じています。部屋の内壁を現在、スタッフが自分で塗っているくらいですから(笑)。僕だけがやりたいと思っても、スタッフの賛同を得られなければ実現できないですよ。この盛り上がりがあるから、急に決めた新ショップオープンでも成立すると信じています」
オープン日も未確定な状況ですが、きっとサプライズ満載の居心地のいい空間になって我々の前に出現することでしょう。オープン後をレポートする【後編】にもどうぞご期待ください!

YAECA
服部哲弘さんと井出恭子さんが2002年にスタートさせたファッションブランド。全国有名セレクトショップでの取り扱いが急増し、年々評価が高まっている。「YAECA」を漢字で書くと「八重日」となり、8つの日を重ねるという、持続するモノづくりの姿勢が込められたネーミング。東京の直営店に恵比寿「YAECA」、中目黒「YAECA APARTMENT STORE」があり、4月に白金高輪に新ショップをオープン予定。

問い合わせ先/YAECA APARTMENT STORE TEL : 03-5708-5586
YAECA www.yaeca.com

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