エイポック エイブル イッセイ ミヤケが生み出した、熱を加えると自在に変形する、魔法のブレスレットとは?

  • 文:林 信行

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A-POC ABLE ISSEY MIYAKEが発表した、魔法のような素材のブレスレットをご存じだろうか。湯に浸すと立体的に変形する、ユニークな素材とは。

Pen最新号は『いまここにある、SFが描いた未来』。SF作家たちは想像力の翼を広げ、夢のようなテクノロジーに囲まれた未来を思い描いてきた。突飛と思われたその発想も、気づけばいま次々に現実となりつつある。今特集では人類の夢を叶える最新テクノロジーにフォーカス。SFが夢見た世界が、ここにある。

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© ISSEY MIYAKE INC.

映画『ターミネーター2』といえば、液体金属の身体をもつアンドロイドがさまざまに変形するさまが衝撃的だった。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの最新プロジェクトで発表されたのは、アンドロイドでもなければ金属でもない。特殊なプリンタで印刷が施された一枚のフィルムである。これをお湯に浸して加熱すると立体的に変形し、上写真のブレスレットのような形状に早変わりする。

ブランドを率いるデザイナー、宮前義之は以前から「スチームストレッチ」という変形素材を使った新しい服づくりに挑戦したり、こうした素材を研究する慶應義塾大学SFCや東京大学の研究者たちと積極的に交流したりと、テクノロジーに対する好奇心が旺盛なデザイナーとして知られている。

その最初の成果が2023年、ミラノデザインウィークで発表された「TYPE-V Nature Architects project」だ。最終的なかたちをインプットするとその展開図を計算するNatureArchitects社のプログラムを用いて、まったく新しい服のつくり方を模索している。こちらは21_21DESIGNSIGHTで開催中の「未来のかけら展」で展示されているので、ぜひ目撃してほしい。

一方、今年3月にはファッションウィーク開催中のパリで、鳴海紘也特任講師らを中心とした東京大学大学院の研究グループと新プロジェクト「TYPE-X Inkjet 4D Print project」を発表した。

これは理論上どんな立体にも自動変形する技術で、70度以上のお湯に入れると変形が始まる。フィルムは温めると縮む特性があるが、熱で変形しないインクを塗り立体形状を生み出しているのだ。予め設定した形状にみるみるうち変化を遂げていくさまは、まさに未来のアクセサリーだ。富士フイルムが開発した「高輝度メタリックインクジェット技術」を使っていて、まるで金属製に見えるが手に持つと驚くほど軽いという、不思議な質感に仕上がっている。

同ブランドではこの研究成果をユーザーに披露し、ワークショップなどで体験する機会を設けつつ、商品化を目指している。

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TYPE-X Inkjet 4D Print project
一枚のシートを加熱すると、あらゆる形状の立体に自動で折り紙のように変形していく世界初の技術。A-POCはその技術を利用し、写真のようなアクセサリーをはじめ、未来のファッションアイテムを開発中だ。 © ISSEY MIYAKE INC.

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一見金属製に見えるブレスレットは、実はフィルム製。持つとその軽さに驚かされる。立体(3D)であるだけでなく、かたちが変化するという意味で、プロジェクト名に「4D」が付けられた。 © ISSEY MIYAKE INC.

なお、パリでは同時に「TYPE-IX Synflux project」も発表された。A-POCは服の部品をすべて一枚の布に収め、裁断ロスが少ない(廃棄する布材が少ない)服づくりの技術をもっているが、今回それがさらに進化。最先端のデジタル技術によってファッションデザインの革新を目指すデザインラボラトリー「Synflux」の技術「AlgorithmicCouture」を用いて、定番の「TYPE-U」のジャケットを、より裁断ロスの少ないかたちにした画期的なプロジェクトだ。

日本を代表するファッションブランドのたゆまぬ技術革新に、これからも期待が高まる。

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TYPE-IX Synflux project
衣服の製造過程における課題であるテキスタイルの廃棄を減らすため、幾何学やアルゴリズムを応用した新たなデザインのシステムを独自開発。衣服の機能性や意匠を損なうことなく、布の廃棄を最小限に抑えられる。パリでは、A-POC ABLEのジャケットをコンピューターで計算し、できるだけ残布を生み出さないように多数のパーツに分けて再構築したものを展示。 © ISSEY MIYAKE INC.

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スチームストレッチを披露するワークショップも行われた。 © ISSEY MIYAKE INC.

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