スターウォーズのワープは実現可能? SF映画のトンデモ技術を、物理学者が徹底検証!

  • イラスト:中尾正悟
  • 写真:吉田歩
  • 編集&文:佐野慎悟

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SF映画の中で描かれた未来のテクノロジーは、本当に実現可能なものなのか? 誰もが気になるその問いを物理学者が検証、わかりやすく解説する。

Pen最新号は『いまここにある、SFが描いた未来』。SF作家たちは想像力の翼を広げ、夢のようなテクノロジーに囲まれた未来を思い描いてきた。突飛と思われたその発想も、気づけばいま次々に現実となりつつある。今特集では人類の夢を叶える最新テクノロジーにフォーカス。SFが夢見た世界が、ここにある。

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山崎詩郎 東京工業大学 理学院物理学系 助教
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。NHK Eテレ『すイエんサー』などの科学監修を担当するほか、映画『TENET テネット』の字幕科学監修や公式映画パンフレットの執筆、『クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修、『オッペンハイマー』(早川書房)の監訳も務める。

タイムトラベルやワープといえば、SF映画に欠かせない重要なエレメントだ。科学的な根拠と照らし合わせた時に、それらの概念はどこまで実現可能なのか? 物理学者の山崎詩郎に、忖度なしの科学考証をお願いした。

「過去へのトラベルは因果律に反することになるので、現時点では不可能とされています。しかし未来へのトラベルであれば、比較的簡単に実現可能です。それは高速で移動をすると時間が遅く進む“特殊相対性理論”と、重力が時間を遅らせる“一般相対性理論”によって説明できます」

自分の周りだけ時間の流れが遅くなる環境に身を置けば、そこから脱した時に、未来の時間軸へとトラベルすることになる。

「とはいえ、いざ人間が何年も先の未来へとトラベルするとなると、まずは超光速で移動し続けるための技術や、巨大な重力をもつブラックホールを見つけ、それに近づくための手段から講じていく必要があります。ワープに関しても、SF映画の中では超光速航法やワームホールを用いた手法が表現されていますが、そもそも相対性理論ではいかなる物質も光速を超えることができないとされていますし、ワームホールの存在も未確定な状態ということもあり、まだ実現は難しそうです」

ただし、このようなアイデアの中には、“人間が体験する”という前提さえ覆してしまえば、にわかに現実味を帯びてくるものも多いと山崎は言う。

「人間の弱点は、寿命が100年程度で、環境の変化に弱いことですが、1000年後には、寿命が無限で、宇宙で生きられる、超知能機械生命体が生まれているはずです。彼らは、光速に近づいてタイムトラベルしたり、惑星をテラフォーミングしたりするのに、1億年待つこともできるんです」

我々人類が最初に遭遇する宇宙文明は、どこかの星で生まれた機械生命体かもしれない。それが地球の侵略のために攻撃を仕掛けてくるという展開もまた、SFの世界では鉄板ネタだ。テクノロジーの進化のための第一歩は、あるべき未来のかたちを想像すること。SF映画は、それを促す最高の起爆剤なのだ。

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タイムトラベル

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特殊相対性理論
『バズ・ライトイヤー』(2022年)
超光速航法を実現するためのハイパースペース燃料をテストするパイロットを務めたバズ・ライトイヤーは、4分間の試験飛行から戻ると、4年半の月日が経過していることに気づかされる。彼はさらに試験飛行を繰り返し、合計62年のタイムトラベルを経験する。秒速約30万㎞である光の速度に近づくためには、少量で莫大なエネルギーを発生させる燃料が必要であり、現時点でその実現を可能にする術は見つかっていない。

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一般相対性理論
『インターステラー』(2014年)
本作の中で描かれた超大質量ブラックホール「ガルガンチュア」。その近くを公転する「水の惑星」では、ガルガンチュアの超重力の影響から時間の流れが遅く、わずか1時間が地球の7年に相当する。探索を終えて地球に帰還した主人公は、自分と同年代にまで成長した娘と再会する。現在の技術では、このような超大質量のブラックホールまで移動していく手段が大きなハードルとなる。

ワープ

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超光速航法
『スター・ウォーズ』(1977年)
『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』で描かれてきたワープは、スペースシップの能力を利用した超光速航法によるもの。ワープ中に見える景色の表現としては、一般的に周囲の惑星が光の線を描きながら後方へと流れていく描写が用いられるが、実際には特殊相対性理論の光行差現象と光のドップラー効果により、星の見かけの位置は宇宙船の前方へと集中し、さらに前は青く、後ろは赤い虹のような景色「スターボウ」が見えるとされている。

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ワームホール
『インターステラー』(2014年)
ワームホールとは、時空のある一点と別の一点をつなぐトンネル状の抜け道であり、その中では、超光速での移動が可能であると考えられている。本作では、人類が移住可能な星を探すために、土星付近にあるワームホールを通って別の銀河へとワープする様子が描かれている。一般相対性理論に基づく正確な描写を行うために、理論物理学者のキップ・ソーンをエグゼクティブ・プロデューサーに迎え、綿密な科学考証が行われた。

ナノマシン

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ナノマシン
『地球が静止する日』(2008年)
高度なテクノロジーをもつ宇宙人が地球に降り立ち、人類による環境破壊や宇宙侵略に対して警鐘を鳴らす本作では、分裂を繰り返しながら増殖する虫型ナノマシンが砂嵐のように街を埋め尽くし、破壊の限りを尽くす。このように機械が自律型の知能をもち、自らを複製、改良していくようになれば、宇宙における探索や開発は飛躍的に進歩していくだろう。生成AIの登場によって、その可能性も現実味を帯びてきた。

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