「家事は任せて!」トヨタが生んだ“ふわふわロボット”に海外メディアが大注目

  • 文:青葉やまと

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Toyota Research Institute-YouTube

ロボットのボディといえば、硬くて冷たいイメージが強い。その常識を覆すかのような、トヨタが開発する新型ロボットが話題になっている。

空気圧で膨らんだモコモコのボディを生かし、物を手で掴むのではなく、胸や腰、腕を使って全身で抱きしめるように持ち上げる。膨張・伸縮する素材を表面に備え、物体に触れると形状が変化。接触したものの形状と力を検出することが可能だ。

開発を進めているのは、米シリコンバレーなどに拠点を構えるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)だ。ロボットは「Punyo」呼ばれ、柔らかさを表す日本語の「プニョ」から命名された。同機関は、「安全で、能力が高く、一緒に働くのが楽しくなるようなロボットという意味が込められている」と説明している。

Punyoが得意とするのは、家の中の不便や困りごとの解決だ。例えば、ウォーターサーバーの重たい水タンクを運び、キャップを下に向けた正しい位置にセットする。1人では運べないソファを模様替えしたいとき、人間が持つ反対側の端を持って一緒に運ぶ。繊細なぬいぐるみを優しく持って、おもちゃ箱に入れてそっと棚に戻す……など、日常的なタスクで人間をサポートする。

目下、重量物や大小さまざまな物体を扱う試験を重ねており、将来的には家庭などでアシスタントロボとして活躍する可能性が期待されている。

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物を「抱える」動作が可能に

ソフトなボディのおかげでPunyoは、より人間に近い自然な動作ができるようになった。これまで、ロボットに物を持たせるとなると、開閉する指先でつまむ動作が多かった。工場などに多く導入されているロボットアームも、つまむ、あるいは空気圧を利用して吸盤のように吸い付けるといった動作が多い。

対象のものを1つだけ運ぶのであればこれで問題ないが、私たち人間の物の運び方はもっと多様だ。複数のものを運ぶ時は、状況によって適した運び方がある。例えば洗濯機から出したばかりの衣類を手で運ぶなら、多くの人は両手いっぱいに抱えるようにして別の部屋へと運ぶだろう。指先だけでなく両腕を生かすことで、よりたくさんの衣類を同時に運ぶことができるからだ。

Punyoは、まさにこうした人間に近い動きを追求している。TRIが公開する動画では、Punyoが両手いっぱいに、スーパーの紙袋をいくつも同時に抱えている。紙袋は海外のスーパーでよく利用されているような柔らかいものだが、Punyoのソフトな腕に抱きかかえられても、中の食品が握りつぶされてしまうようなことはないようだ。

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手だけで持とうとするロボが多いが…

ソフトなボディは安心感をもたらすだけでなく、こうした実用的なメリットを生み出した。TRIで全身操作分野の技術リーダーを務めるアンドリュー・ボーリュー氏は、「グリップ力の高いスキンを採用することで、胸に近い位置で物体を抱えることが可能になりました」と語る。

「これにより、重い物体をより少ない力で持つことができます。驚くことに、重量のあるロボットでさえ、手だけを使おうとする例はよく見かけます。やり方を変え、体全体を使うだけで、両手で掴める以上のものを運ぶことができるのです」と利点を強調している。

もっとも、単にボディを柔らかくしただけでは、適切に物を運ぶことはできない。実はPunyoの愛らしいボディの内側には、無数の触覚センサーが埋め込まれている。これらを通じ、抱えている物体がどのようにボディに接触しているかを検出。物体の姿勢や生じている圧力をリアルタイムで把握する。

胸の部分には、グリッド状に並んだ20個の触覚センサーを配置。接触面の圧力や振動を検知し、抱えている物体の位置を分析している。

また、手先にも状況判断の仕組みが組み込まれている。Punyoは指先を持たず、両腕の先端は柔らかな半球状だ。物体にフィットするよう、伸縮性の生地を空気圧で膨らませた。この手先部分は、外から見る限りは白の単色だ。だが、内側には数百点にのぼる黒のドットが描画されている。

手の内部に仕込まれた高解像度カメラを使い、物体を持った際のドットの動きを追跡。各ドットの位置の変化をもとに、接触している物体の形状や正常にグリップできているかなどを判断する。人間のような運搬動作を、こうしたセンサー類が支えている。

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柔らかなハグは格別の安心感

なお、身体が柔らかいことで安全性も向上している。ほかにも、思わぬメリットが生まれたようだ。情報工学分野の標準化団体であるIEEEが発行するIEEEスペクトラム誌の取材に、プロジェクトでHRI(人間・ロボット間インタラクション)の技術リーダーを務めるケイト・ツイ氏が応じている。

「Punyoに抱きしめられるのはどんな感じがしますか?」との質問にツイ氏は、「Punyoは(人間とのコミュニケーションを重視して作られた)ソーシャルロボットではありませんが、ハグをすると驚くほど多くの感情が伝わってきて、とても心地よく感じます」と回答している。

「Punyoのハグは長く、長い間会っていなかった親しい友人からぎゅっと抱きしめられるような感じです」

もしも将来、ごくふつうの家庭にお手伝いロボットを導入することが一般的になったとしたならば、ソフトなロボットの方がたしかに親しみを持ちやすいかもしれない。

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【動画】やわらかボディで運搬をこなすPunyoと、その内部技術。