900点を超える作品が一堂に。宇野亞喜良の創作世界を史上最大スケールにて紹介!

  • 文&写真:はろるど

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1960年代半ば、劇作家の寺山修司と出会ったことで、演劇や舞台のポスターを手がけるようになった宇野。ファンタジーやエレガンス、エロティズムなどの漂うさまざまな世界観を展開している。

1960年代の日本において「イラストレーション」、「イラストレーター」という言葉を広め、時代を牽引してきた宇野亞喜良(うの・あきら、1934年生まれ)。その創作は、イラストレーション、ポスター、絵本、書籍、アニメーション映画、絵画、舞台美術など多岐に渡り、1950年代初めのデビュー以来、活動の範囲は限りなく広がっている。また俳句に親しみ「左亭」の俳号を持つ宇野は、近年、松尾芭蕉や寺山修司らの詠んだ句をテーマにした新作を描き続けている。かつてはBUCK-TICKや椎名林檎らのポスターやグッズ、さらに資生堂「マジョリカ マジョルカ」の似顔絵ジェネレーター「マジョリ画」といった企業とのコラボレーションも手がけているが、最近もますます旺盛に活動を続けている。

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手前は劇団T Factory『文体の獣』のための衣装。宇野は1960年代から舞台美術や衣装、メイクを行っていたが、1990年代以降はダンス・エレマンとの仕事をきっかけに、本格的に舞台美術の仕事に携わるようになる。

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』は、初期から最新作までの仕事を12のトピックから網羅する史上最大規模のスケールの展覧会だ。会場には繊細でかつ校正紙に細やかな指示の入った原画をはじめ、街中に貼る度に剥がされてしまうといったエピソードが残るほど人気を誇ったポスター、またまとまったかたちで展示される機会の少なかった大道具や小道具、人形、衣装などの舞台美術などを紹介。宇野の仕事を振り返る大型個展は、2010年に刈谷市美術館で開催されて以来14年ぶりだが、当時の個展よりも出品数を増やし、実に900点を超える作品群によって膨大な宇野の仕事の全貌を見ることができる。

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『新婦人』が並んでいる展示風景。宇野は記事の内容や著者の嗜好、さらに印刷の仕様などまで目を配って、新聞や雑誌の仕事を続けている。

 

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右は『話の特集』原画『愛奴』(1965〜65年)著:栗田勇、日本社。和田誠がアートディレクションをになった『話の特集』。宇野は創刊号から栗田勇の小説『愛奴』のイラストレーションを描いた。

多彩なジャンルを手がける宇野の仕事の中で、最も長期に渡っているのが新聞や雑誌におけるイラストレーションだ。1960年に1年間連載した『新婦人』の扉絵で初めて雑誌の仕事を得ると、翌年より6年間、表紙を写真家の鈴木恒夫と組んで担当する。さらに『話の特集』が1965年に創刊されると、栗田勇の『愛奴』に官能的なイラストレーションを描き、寺山修司の『繒本千一夜物語』にはコミカルな作風で向き合いなど、1つの雑誌で2人の作家の文章にあわせ、異なるスタイルで絶妙に描き分ける。さらに70年代には『週刊小説』などの目次絵にエロティックな女性像を描きつつ、『詩とメルヘン』では愛らしい画風で絵を寄せるなど、振り幅の著しい変幻自在なイラストレーションにて作品を次々と完成させていった。

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左から『龍の耳』、『龍の落し子』(ともに2020年)。『龍の落し子』は俳人・宗田安正が詠んだ句から創意した作品。澁澤龍彦の世界観へのオマージュが込められている。

「文字から絵を発想することが好きだし、少女を描くのが好きだからなのだと思う。考えれば、90歳にいたる長い時間を、この好きだから…という気分で仕事をしてきたし、そんな気分で生きてきたような気がする」と語る宇野。長いキャリアを鑑みれば明らかとはいえ、ひとりのアーティストが生み出したとは思えないほど膨大な作品を前にすると、ただひたすらに圧倒されてしまうが、いつの時代もどのようなジャンルであれ宇野の作品と分かるほど強い個性が見られることにも心服させられる。「今でありたい」という感覚を大切にし、それぞれの時代の現代を描き続けてきた宇野の華麗で耽美な創作世界を味わいつくしたい。

『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』

開催期間:開催中〜2024年6月16日(日)
開催場所:東京オペラシティ アートギャラリー
https://www.operacity.jp/ag/