本とアートに出合う、地域に開かれた駅前図書館【今月の建築ARCHITECTURE FILE #19】

  • 文:佐藤季代

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憩いの場として開かれた1階を2階の蔵書スペースが取り囲む。紫外線から本を守るため、2階は天窓のみの閉じた空間になっている。 photo: Naoomi Kurozumi

のどかな田園風景が広がる三重県・伊賀市新堂。2023年11月、名古屋と大阪を結ぶJR関西本線の新堂駅前に「ブックマークストレージ」が誕生した。付近に生産拠点を構える工作機械メーカー・DMG森精機が事業主となり、駅前整備事業のひとつとして計画された図書館だ。「本に出会う」をコンセプトに、建築家の山﨑健太郎が設計を手掛けている。

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長手方向の壁面に沿って、構造体を兼ねた本棚が並ぶ。構造材には三重県産の杉材が使用されており、木の温もりを感じさせる。 photo: Naoomi Kurozumi

木造2階建ての建物は外壁に地元産の焼杉が用いられ、自然豊かな景観と調和する。1階はカフェとギャラリーが併設され、地域に開かれた広場として住民たちが集い過ごせる開放的な空間だ。一方、ダイナミックな吹き抜けとつながる2階の収蔵スペースには、回廊型の空間に書棚が整然と並び、書庫のような静けさが漂う。ここにはテーマごとに分かれた約2万冊の蔵書が収蔵され、館内やテラスで自由に読書を楽しめる。

また屋内外のいたるところには、名和晃平による彫刻作品『Ether#98』をはじめ、若手アーティストの絵画が点在する。現代アートとの出合いもここでの体験のひとつとなっている。

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開放的な1階からは、周囲の田園景色が眺められる。駅の待合所を兼ねており、館内のいたるところに腰掛けられる家具が置かれている。 photo: Takuya Kominami

現在、図書館に続く第二期プロジェクトとしてランドスケープを含めた滞在型施設の計画も進行中。行政だけでなく、民間企業と建築家が手を組み、景観や街づくりに取り組むことで、地域の活性化へとつながっていく。

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建物は、1時間に1本のローカル線の駅前に立つ。図書館を中心に行政市役所の支所やバスの待合所が設けられるなど、駅前一帯を整備。 photo: Naoomi Kurozumi

ブックマークストレージ

住所:三重県伊賀市新堂313-19 
TEL:070-2242-3671
開館時間:9 時~21時
定休日:年末年始(12/29~1/3)
料金:入場無料
www.bookmarkstorage.jp
【設計者】山﨑健太郎デザインワークショップ代表の山﨑健太郎は、1976年千葉県生まれ。2017年にドイツのiFデザイン賞の建築カテゴリーで日本人初の金賞を受賞。23年、老人デイサービスセンター「52間の縁側」でグッドデザイン大賞を受賞。

※この記事はPen 2024年5月号より再編集した記事です。